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コラム:カナダで新たな分離独立運動、背景に「温暖化」 - ロイター (Reuters Japan)

[モントリオール 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - カナダのケベック州モントリオールで今年11月9日、地下鉄プラス・デ・ザール駅のプラットホームにおいて不愉快な事件が発生した。南アジア系の女性がドミノピザの箱を抱えて乗り込んだところ、1人の男性が箱をたたき落とし、ピザが地下鉄車両の床にぶちまけられたのだ。

11月12日、カナダのケベック州モントリオールで今月9日、地下鉄プラス・デ・ザール駅のプラットホームにおいて不愉快な事件が発生した。写真はカナダ国旗。モントリオールで10月撮影(2019年 ロイター/Stephane Mahe)

女性は怒りの声をあげたが、脱色して黄色に見える髪の男性は彼女に向かって中指を立てるしぐさを示し、出口へと急いだ。女性の表情は、驚愕から恐怖へと変わっていった。

「大丈夫ですか、知っている人ですか」との問いに、彼女は震えながら「いいえ、会ったこともありません」と応じた。

この事件はもちろん、少なくとも部分的には人種差別によるものだ。ショックなのは、それが予兆もなく不意に発生したということだけが理由ではない。世界に対して、とりわけ移民や難民に開放的であるという点で、他の民主主義諸国よりも先を行くカナダという国で起きたことが何よりも衝撃的なのだ。

同じ日、カナダで最も有名なホッケー解説者ドン・チェリー氏が、同国にやってきた新しい移住者は戦没者記念日の追悼の印として着用する赤いポピーの花を数ドル払って購入すべきだ、と示唆する発言をした。2日後、彼はテレビ番組「ホッケー・ナイト・イン・カナダ」の司会を降板させられた。

<息吹き返したアルバータ州の動き>

いくつかのエピソードだけで国全体を語ることはできない。だが、そこに現在のカナダの分裂状況が反映されていないとは考えにくい。

いま、同国では、エネルギー資源が豊富なエネルギー資源を持つアルバータ州と穀倉地帯であるサスカチュワン州を中心としたカナダ西部諸州で分離独立の動きが高まっている。いわゆる「ウェグジット(WEXIT)」を支持する人々が掲げる要求の1つが、移民流入の抑制だ。

しかし、彼らのより大きな不満は「経済」に対するものだ。ジャスティン・トルドー首相のもとで連邦政府が進める地球温暖化への取り組みに対し、石油資源に依存する州民の反発が強まっている背景もある。

カナダが国家分裂の試練を経験するのは初めてではない。ケベック州の分離独立に向けた動きは、1995年の住民投票において僅差で却けられた。アルバータ州でも、1905年に州となって以来、エネルギー政策や税制に関連して、繰り返して分離独立の問題が持ち上がっている。アルバータ州出身のスティーブン・ハーパー首相が政権を握っていた時期には同州の分離独立運動は沈静化していたが、トルドー政権になってから、その動きが息を吹き返した。

先週発表されたイプソスによる世論調査によれば、分離独立する方がアルバータ州は豊かになると考える住民は、わずか1年強前の25%に対し、現在は3分の1に達している。

<独立すれば世界最悪の環境汚染国に>

主な争点はカナダのエネルギー政策、より具体的にはアルバータ州で産出するタールサンドである。州政府によれば、石油埋蔵量としてはベネズエラ、サウジアラビアに次ぐ世界第3位の規模だという。関連の産業は、2017─18年に14万人を雇用し、ロイヤルティ収入として26億カナダドルを生み出した。ただし厄介なことに、タールサンドからの石油抽出には高いコストがかかる。輸送費を考え合わせれば、タールサンドは大規模なエネルギー資源としては世界で最も効率が悪いとも言える。

その上、さらに、有害物質の発生という問題がある。タールサンドからビチューメン(瀝青、超重質油)を抽出するには、実質的に、熱湯と化学物質によってタールサンドを溶かすことになるが、これによって有害な残留物が生じる。国家資源防衛委員会は、「抽出から廃棄物貯蔵に至るまで、タールサンドによる石油生産プロセスは悲惨な状況を生み出している」と主張している。

カナダ・グローバル・ニュースが引用する2019年版「ワールド・ポピュレーション・レビュー」によれば、結果として、アルバータ州は住民1人あたり62トンの二酸化炭素を発生させたことになる。これに対し、サウジアラビア国民は1人あたり約17トン、米国民は1人あたり16トンである。この指標で見れば、アルバータ州が分離独立すれば、住民1人あたりの環境汚染が最悪の国ということになってしまう。

それでも、政党化をめざす「ウェグジット・カナダ」の指導者ピーター・ダウニング氏は怯まない。英国のブレグジット(欧州連合からの離脱)運動のリーダー、ナイジェル・ファラージ氏のカナダ版とも言えるダウニング氏は、ウェグジット・カナダ政党は、アルバータ州だけでなく、サスカチュワン州、マニトバ州、さらにはブリティッシュ・コロンビア州の一部からも支持を得られるはずだと話している。

イプソスの世論調査によれば、フランス語圏であるケベック州では今も分離独立に26%の支持が集まるが、アルバータ州以外におけるウェグジット運動への支持は、実のところサスカチュワン州で1年前の18%から27%に上昇したのが目に付く程度だ。

今のところ、マニトバ州やブリティッシュ・コロンビア州では支持は広がっていない。

<石油産業とどう生きるか>

アルバータ州のジェイソン・ケニー首相は先週、州内の対立を意識し、連邦政府からの権限回復の道を探る組織として「フェア・ディール・パネル」を創設した。検討の内容としては、カナダ年金制度からの離脱、州警察部隊の創設、エネルギーセクター規制やトランスマウンテン・パイプライン拡張工事の延期といったトルドー政権に対する反撃などが考えられる。

ケニー州首相は連邦主義者を自称している。とはいえ、連邦政府や、トロントやモントリオールのいわゆる「東部エリート」に対する怒りの噴出を抑えつつ、オンタリオ、ケベックというカナダで最も人口の多い州と反目せずにいるというのは容易ではなかろう。

ダウニング氏は、フェイスブック内で26万5000人のフォロワーを抱える「VoteWexit(ウェグジットを支持しよう)」と題するページで、ケニー首相の「パネル」に関して、先行きは困難であるという見通しを示した。「トルドー首相はアルバータを破壊する構えだ。それなのにケニー氏は、この先6カ月じっくりと研究すると言う。問題を解決するのは分離独立だけだ」。

結局のところ、この議論は、カナダ国民が自らの経済的将来についてどう考えているかという点に帰着する。石油資源の抽出が地球温暖化の元凶だとされる時代にあって、石油産業とカナダはどうやって繁栄していくのか。

化石燃料の利用を削減したいと政府が考えるならば、その移行を穏やかなものにするような経済的解決を見出さなければならないだろう。イプソスの世論調査によれば、アルバータ、サスカチュワン両州住民の過半数は、連邦から公平な分け前を得ていないと考えているが、恐らくそうした見方を覆すような解決策が必要だろう。

海面の上昇が沿岸部の土地を侵食していくような温暖化が進む未来において、ロシアに次いで世界第2位の面積を持つ国土にわずか3800万人が暮らすカナダが活気ある経済を維持していれば、ほぼ確実に、移民の流入を促すことになる。モントリオール地下鉄の1件でも分るように、移民の流入はすでに対立の原因となっているが、それがはるかに大きなものになりかねない。

カナダやその南に接する米国のように、まだ歴史が新しい国々が小規模な主権国家に分裂していくかもしれないという予測は、ひどく極端なものに思えるかもしれない。だが、気候変動の影響は国家の存亡にも関わる課題となり、友好的な隣人同士を容易に分断してしまう可能性がある。アルバータ州の動向からは今後も目が離せない。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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(翻訳:エァクレーレン)

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