ジェラートといえば、暑い夏に食べる”ひんやりスイーツ”というイメージですよね。 濃厚なミルク系からさっぱりとしたフルーツ系まで、その種類はさまざま。 しかしここ数年は、旬の素材にこだわった美味しいジェラートを楽しめるお店が増えているんです。そこで今回は、世界第3位に輝いたとっておきのジェラートが楽しめる、阿佐ヶ谷のジェラート専門店「シンチェリータ」をご紹介。年間200種類を生み出すというジェラートに込められた思いを聞いてきました。
世界第3位のジェラートが阿佐ヶ谷に
「シンチェリータ」は、阿佐ヶ谷駅北口から徒歩7分ほどの場所に店を構えています。飲食店や雑貨店が多く立ち並ぶ「松山通り商店街」の通り沿いにあります。
「シンチェリータ」の代表作ともいえるジェラートは、2011年にイタリアで開催された国際ジェラートコンテストで3位に入賞したこともある「メルノワ」。シンプルなミルクのジェラートに、荻窪にあるはちみつ専門店ラベイユの「森のはちみつ」と、粒々のピーカンナッツを混ぜ合わせたフレーバーです。
一口食べてみると、ミルクのやさしい甘みとはちみつの濃厚なコク、さらにピーカンナッツの程よい塩気が口の中で絶妙なハーモニーを奏でます。ジェラートのなめらかな口当たりもさることながら、ピーカンナッツのサクサクとした食感も良いアクセントに。イタリア語で「誠実」を意味する店名のとおり、1つ1つ丁寧に作られたのがしっかりと伝わります。そんなジェラートに対する想いを知りたくて、オーナーの中井洋輔さんにお話を伺いました。
インテリアデザインからジェラートの世界へ
──お店をはじめたきっかけはなんだったのでしょうか。
中井さん:もともとインテリアデザインの仕事をしていたのですが、30歳を前に「どうせ仕事をやるなら自分の好きなことをやろう!」と思ったんです。その時に思い浮かんだのがジェラートだったんですよ。デザインの勉強をするために、1年半ほどイタリアのミラノに留学していた時期があって。昔からジェラートが好きだったこともあり、いろんなお店を食べ歩くようになったんです。
その時、ミラノには沢山のジェラート専門店があることに気付いたんです。お店によって味が全く違い、そこでジェラートの奥深さを改めて感じましたね。その後、日本に帰国してからジェラート専門店がほとんどないことに気付いて。「だったら自分でお店を作ろう!」と思ったのがきっかけでした。
▲ お店には手作りにこだわった常時16種類のジェラートがずらり
──ジェラート店をオープンするにあたり、イタリアで修業しようとは思わなかったのですか?
中井さん:当時はその考えはなかったですね。実は帰国後日本のェラテリアで半年ほど働いていたんです。そこのジェラートが本当に美味しかったんですよ。製造から販売まで必死に勉強していました。
──オープンして今年で9年目とのことですが、ジェラートを作り始めて苦労したことはありますか?
中井さん:とにかく前職とは全くジャンルが違うので分からないことばかり。どこから材料を仕入れたらいいか分からなくて本当に苦労しましたね。今でもいろいろと苦労は尽きませんよ。
ジェラート店にキッチン? 日々の研究はここから始まる
──先ほどジェラートをいただきましたが、フルーツの美味しさがとにかく際立ちました。ジェラートを作る時に何か意識されているのでしょうか?
中井さん:とにかく旬のフルーツは必ず使うように意識しています。生産者に直接会いに行ってお話を聞かせて頂き、その土地のことや農産物についても聞いています。季節感って料理でも大事じゃないですか。その時期にしか味わえないですし。フルーツの美味しさを存分に堪能できるよう、その素材の特徴を自分で理解して、甘さや酸味などのバランスを常に考えて作っています。
▲ ジェラート店には珍しく、キッチンが併設
──バランスが重要なんですね。配合の比率は試作を重ねながら調整していくのでしょうか?
中井さん:配合のバランスは全てエクセルを使って数値化しているんです。固さ・糖の量・水分量・固形量・乳脂肪分・たんぱく質・感じる甘さなど、科学的要素がとにかく強いので、数値化しないと難しいですね。ただそれだけに頼ってしまうと手作り感が薄れてしまうような気がして。
最近では、自分の感性の一部を数値の中に入れ込むようにしています。ジェラートの味に正解は無いので、これはこれでアリだと。
──国際ジェラートコンテスト第3位に輝いた「メルノワ」のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?
中井さん:もともと蜂蜜を入れたフレーバーを作りたいと思っていたんです。その時に、荻窪にあるはちみつ専門店「ラベイユ」さんに相談したところ、ミルクと相性の良いはちみつを紹介いただいたのがきっかけですね。そのはちみつの甘さに、クルミのほろ苦さが合うと思って。今は使っていたクルミの仕入れが困難になり、ピーカンナッツに変更しています。
──なぜ海外のコンテストに応募しようと思ったのですか?
中井さん:コンテストに興味はなかったのですが、たまたま一緒に働いていたパティシエから「こんなコンテストがあるんですけど、出てみませんか?」と誘われたのがきっかけです。イタリア中部のリミニという場所で開催されたのですが、約50人ほどが参加していましたね。
──世界第3位に選ばれるって本当にすごいですね! その後もいろんなフレーバーを開発されてますが、中井さんのオススメを教えていただけますか?
▲ ピーカンナッツのサクサクとした食感がクセになる名物の「メルノワ」
中井さん:オススメ……。どれも想いがあってすごく難しいのですが、オープン当初からある「ピスタチオ」や、さっぱりとした「完熟梅」などは個人的に好きですね。「ピスタチオ」は、シチリア産ピスタチオの風味を生かすため自家焙煎しています。上品な甘さとスッキリとした後味が特徴で、オープン当初から根強い人気です。「完熟梅」は、和歌山みなべ町で収穫された梅を使用しています。完熟してから収穫されるので、従来の梅よりもフルーティーな香りが楽しめるんです。「完熟梅」の販売は終わってしまいましたが、毎年シーズンに販売する、自信を持ってオススメするフレーバーですね。
▲ デュオ(ピスタチオ&完熟梅)720円(税込) ※1/2プレミオフレーバー
雨の日にしか出会えないフレーバーも
──年間で約200種類のフレーバーを作るそうですが、雨の日にしか出会えないジェラートがあるというのは本当でしょうか?
中井さん:今となってはいつから始めたのか覚えていないのですが、雨の日にしか提供しないフレーバーはありますよ。雨の日は、本当に集客が少なくなるので、藁をも掴むくらいの気持ちで、少しでもお店に立ち寄るきっかけになればと思って始めました。そんな想いを大事にして、その日にしか出会えないフレーバーを作っています。
──その気持ちはお客さんにきっと届いていると思います。ちなみに前回の雨の日はどんなフレーバーだったんですか?
中井さん:前回は「かぼちゃシナモン」というフレーバーを作りました。9月に収穫して、10月、11月に出荷・販売される、「銀世界」というかぼちゃを使用しています。かぼちゃ本来の甘味にシナモンの香りが加わり、一度食べるとクセになる味わいなんです。
▲ かぼちゃシナモン 500円(税込)
──かぼちゃとシナモンの組み合わせは意外でした。ちなみに、今開発している新しいフレーバーを教えていただけますか?
中井さん:今はゴマを使ったフレーバーを開発中です。近日登場予定なのでお楽しみに!
地域に根付いたお店を目指す「シンチェリータ」
──来年の3月で10年目を迎えるそうですが、そもそもなぜ、この街でお店を開こうと思ったのでしょうか?
中井さん:よく聞かれるんですが、特に阿佐ヶ谷にこだわりがあったわけではないんです。本当にたまたまなんです。でも今となっては、ここで良かったと思っています。商店街にはいくつものお店がありますが、皆さんやさしい方ばかりでいつも助けられています。お店の目の前がお花屋さんなので、季節感を自然と感じることができて、季節のお花を買ってお店に飾ったりするのも日課です。
──2号店を出す予定はあるのでしょうか?
中井さん:今は考えていないですね。オープンから約10年たって、やっと形が見えてきたところなんです。1年に2回ぐらいは催事などに出店してますが、それで十分です。
──これからどのようなお店にしていきたいですか?
中井さん:2018年の3月に、お店を改装しリニューアルしました。コンセプトは変わっていませんが、ショーケースを変更し、インテリアを大きく変えてジェラートの配合や作り方を見直したんです。常にチャレンジ精神をもってやっていきたいですね。ジェラートの味だけではなく、絵やイラストを描くなど、遊び心も大切にしていきたいです。
▲ 店内にある手書きのフルーツカレンダー
「学校や仕事帰りにふらっと寄って、その日の疲れをジェラートで癒して欲しい」そう語る中井さんの言葉をあらわすように、取材中でも、小さいお子様を連れたお母さんや学校帰りの男子学生、買い物途中のおばあちゃんなど、沢山の方々が来店していました。笑顔で頬張る姿は、こちらもうれしくなるほど。 アットホームで温かい気持ちになれる阿佐ヶ谷の「シンチェリータ」。ホッと一息つきたい時に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
店舗情報
Gelateria SINCERITA
住所:東京都杉並区阿佐谷北1-43-7
営業時間:11:00~21:00
電話番号:03-5364-9430
定休日:年中無休
書いた人:はなとも
日本スイーツ協会認定のスイーツコンシェルジュ。 スイーツ専門のライターとして様々なweb媒体で記事を連載中! 著書「スイーツ男子はなとものi love パンケーキ」を2017年11月、株式会社KADOKAWAより出版。
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December 23, 2019 at 04:32AM
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