ビャンビャン麺って何だ?
「ビャンビャン麺」なんて、食べたことも聞いたこともない、という人も多いのではないでしょうか。
「ビャンビャン」という謎の響き、そしてやたら画数の多い漢字でテレビなどでも話題になっている中国の麺、といえばおわかりになりますでしょうか。
そう、これが一文字で「ビャン」。
なんとこの漢字は、ビャンビャン麺でしか使われていない(そして普通のフォントにもないので原稿にも書けない……)、新しい文字らしいのです。
総画数は57画、との説が有力ですが、56画、いや58画だとの意見もあり、未だ確定していません。
今回はそのビャンビャン麺がおいしく手軽に食べられると評判の東京・八丁堀の「秦唐記(しんとうき)」にやってきました。
カウンターもある、カジュアルな入りやすい店です。最近テーブル席ができたのでグループでもくつろげます。
ビャンビャン麺の魅力をビャン大使メグミさんに教えてもらおう
さて、今回はビャンビャン麺の魅力をより深く知りたい! ということで、巷でビャン大使と呼ばれているメグミさんにお越しいただきました。
──ビャンビャン麺のことならこの方、という評判を伺っています。今回はよろしくお願いいたします。ところで、ビャン大使って何をするのですか?
メグミさん:ビャンビャン麺が色々なところで手軽に食べられるようになることを目指して活動しています。活動といっても、ようするに色々な店にビャンビャン麺を食べにいって、それをSNSに書くくらいなんですが。
それでビャンビャン麺に興味を持った知人に「どこで食べたらいいの?」という質問はよく受けるので、好みとか行きやすい場所を聞いておすすめしています。
──色々な店、がメグミさんはすごく範囲が広いんですよね? 日本だけではなく、もちろん本場・中国にも行かれているとか。最初にメグミさんとビャンビャン麺の出会いを教えていただけますか?
メグミさん:2017年11月、東新宿の山西亭で開かれた、特別なビャンビャン麺を食べましょうというパーティがきっかけです。山西亭は山西省の料理店でレギュラーメニューにビャンビャン麺はないのですが、主催が中国料理にすごく詳しい方で。ビャンビャン麺は、山西省(さんせいしょう)の隣の陝西省(せんせいしょう)の名物の麺なんです。
──その後、本場に行かれたんですね。
メグミさん:その年末にたまたま陝西省の西安(西安市・せいあんし)に行ったんですよ。そうしたら、そこらじゅうに「ビャン」の文字があったんです。日本では全然知られていなかった頃なんですが。今は現地でもっと流行っていて、西安では今すごく「ビャン推し」なんですよ。いろんなビャングッズが売られている、って聞きました。
▲西安のイスラム街。ビャンビャン麺の看板があちこちに。現地では「麺」は「面」と表記されている(写真提供:メグミさん)
メグミさん:西安でも3ヵ所か4ヵ所くらいで食べたと思うんですが、全部違うんですよ、味が。安いのから高いのまで6元から30元(※)くらいまで幅があって、店のきれいさも違うし、チェーン店とかもあったし。
(※)2019年12月19日現在で1元=15.64円。6元のビャンビャン麺で、およそ94円
▲西安の街角のビャンビャン麺屋(写真提供:メグミさん)
──庶民的な店でも高級店でもビャンビャン麺を出してるんですね。
メグミさん:はい。そして、どこでも頼むと喜ばれます(笑)。私が店で「ビャンビャン麺」っていうとあちらも「ビャンビャンミエーン」と、とてもうれしそうに応えてくれました。外国人が自分たちの名物を食べてくれるというのがうれしいんだと思います。
──「ビャンビャンミエーン♪」ですか。
メグミさん:そして必ず店員さんからは「よく混ぜて」って言われます。その「混ぜて」まで言われるのがビャンビャン麺を楽しむストーリーですね。どんなにお腹いっぱいでもスルスルって入ります。あと、日本より一杯の量が少ないですね。軽食なんだと思います。
▲西安の街角で。店前で麺打ちをするビャンビャン麺屋(写真提供:メグミさん)
──メグミさんはどうしてそんなにビャンビャン麺にハマったのでしょうか?
メグミさん:ビャンにはロマンがあります。なぜかというと、食べると日本じゃなくなる、大げさにいうと中国大陸、ユーラシア大陸に誘う感じがあります。もっと深いことをいうと、その前に私、ラグマンとかラグメンにハマって、そこから戻った感じもあります。
──ラグマン、ラグメンは中央アジアを中心に食べられている手打ち麺ですね。手打ち繋がりですね。
▲ウズベキスタンのラグマン
メグミさん:ウズベキスタンに行ってラグマンを食べて、ウイグル料理店でラグメンを食べて、それでビャンを食べた時、なんか繋がってるって思ったんです。兄弟みたいな。遠くにラグマンがあるっていうより、繋がってる。トマトが入ってたりして味が近いものもあります。
▲西安のビャンビャン麺。ソースは奥がトマト玉子、 手前は豚肉をトロトロに煮込んだもの(写真提供:メグミさん)
──中国大陸と中央アジアの狭間というか。
メグミさん:そう、西安がちょうどシルクロードの入口ですね。だから、ビャンビャン麺食べるとシルクロードの入口に立った感があります(笑)。
──味の種類は定番のものがあるんですか?
メグミさん:はい。定番はヨウポーとトマト玉子ですね。
──一番好きなのは何味ですか?
メグミさん:やっぱり好みはヨウポーです。
ヨウポー、聞きなれない言葉だと思いますが、ヨウポー麺は、秦唐記でも定番メニューなので後ほどご紹介しましょう。
▲ビャンビャン麺のメニューの書かれた看板。色々な味がある(写真提供:メグミさん)
ところで店長さん、世界一難しい「ビャン」の漢字は書けますか?
ところで、ビャンビャン麺の「ビャン」の漢字の起源には諸説があり、そのすべてが伝説的で誰も真実を知りません。
その前に、ビャンビャン麺の名前の由来ですが、これも諸説ありまして、「平たい」という意味の扁の発音から、麺を伸ばして台に打ち付ける時の音、それらが混ざったものなどあって、誰も真実は知りません。
ともあれ、ビャンビャン麺の魅力のひとつにこの漢字もあるのではないでしょうか?
▲秦唐記のスタッフTシャツの背中には、当然「ビャン」。
メグミさん:ですね。某テレビ番組で「130画のだれも読めない難読料理」みたいに紹介されていたんですけど、私の周りみんな読めますよ! 書けるし。そうするとなんか、親しみがわきますよね。識字率が上がってきました。
──「ビャン」識字率。
メグミさん:私が主催の山西亭の食事会ではビャン字テストっていうのを食べる前にするんですよ。紙を配ってビャン字を書くんです。正解率は70%だったり50%だったり。前回の時には、書けた人は支払い価格が割引になりました(笑)。ビャン字の識字率を上げることも、ビャン大使活動の一環です。
さて、ここで登場していただきました秦唐記の店長・杉本さん。
──店長さんは、ビャン字を書けるのでしょうか?
杉本さん:もちろんです! 任せてください。店が開店したばかりの頃、暇だったのでずっと書いてたんですよ(笑)。
▲見事に美しい「ビャン」が書き上がりました
──ところで、こちらは開店当初からビャンビャン麺推しでしたね。当時日本ではビャンビャン麺はほとんど知られていなかったと思うのですが、なぜビャンビャン麺だったのですか?
杉本さん:昔オーナーと料理長が他の中華料理店で働いてまして、そのまかないでよく麺を作って食べてたらしいんですよ。料理長が元々その技術を持っていたんです。でも一般的な中華料理店では出せない。
料理長は西安出身なので、自分のふるさとのビャンビャン麺という麺を知ってもらいたいとの思いがあったらしいんです。そしてこの店を出す時にオーナーいわく、「ここは料理長の店のようなものだから」ということでビャンビャン麺を出すことになったんです。
──こちらの店ができた後にブームがきましたよね。最近はテレビなどで有名になってきたのですが、それは予見されてたとか?
杉本さん:まったくないです(笑)。タイミングは良かったですね。
──店長さんの思うビャンの魅力ってなんでしょう?
杉本さん:漢字、漢字ですね!(笑)
メグミさん:(笑)。一番若いビャン字を書ける子は友達のお子さんで小学2年生なんですよ、漢字の課題が出た時に一番難しい字を書いたそうで。先生も見てびっくりだったと思うし、子供たちに紹介したと思うし、子供たちもびっくりしたと思うし、子供たちから聞いたお母さんたちもびっくりしたと思います。
ビャン字から、ビャンビャン麺の知名度が上がっていくのです。
注文ごとにビャンビャンと伸ばして作るビャンビャン麺
それでは、秦唐記のビャンビャン麺をいただきましょう。
麺の太さと辛さが選べます。
麺の太さは、ランチタイムは幅広麺(標準・きしめんくらいの太さ)とベルト麺(幅2〜3cmくらい)の2種類。ディナータイムにはもっと細い麺も2種類選べます。辛さは3段階です。
──こちらの一番人気はどのメニューでどの太さでしょうか?
杉本さん:味はヨウポー(油泼)、麺の太さは普通の幅広麺です。特にご指定がなければ、幅広麺でお出ししています。唐辛子の辛さも3種類あるんですけど、ビャンビャン麺って言われたら、太さは幅広麺で唐辛子は中辛で熱盛りが基本の形です。
──西安でも基本はヨウポー麺ですよね。
杉本さん:そうですね。西安ではヨウポー麺で太さはベルト麺が普通ですね。うちでは食べやすさを重視して細め(幅広麺)を標準にしてますが、ベルト麺を注文される方も多いですよ。
ビャンビャンする麺打ちも見せていただきました。
厨房で麺を打っているのは料理長の馮樹(ヒョウジュ)さん。
麺は小分けにして寝かせてあります。
この麺を麺棒で軽く伸ばし、
びよ〜んと伸ばし、
真ん中から裂きます。
台に打ちつけながら、
ここで、ビャンビャンと振り回して、
伸ばしたら出来上がり。
結構な早業です。一人前を打つのは2分くらいでしょうか。
この麺を茹でて、
茹で上がったら、各種タレをかけて出来上がりです。
ビャンビャン麺は素早くしっかり混ぜるべし
まずは、基本のヨウポー麺です。
▲ヨウポー麺(850円)
ヨウポー麺は、ビャンビャン麺の基本の味。
タレの上に麺を盛り、唐辛子、ニンニク、具材を乗せた上から、熱した油をジュジューッと回しかけた、中華風ペペロンチーノのような味付けです。
味付けは店によって結構違うのですが、秦唐記ではこのヨウポー麺の基本ともいえるニンニクを使っていません。
──ニンニクを使っていないのはお客様がビジネスマン中心だからですか? 食べた後に仕事に戻っても大丈夫なように。
杉本さん:そうですね。ニンニクがお好きな方には、ご希望があればすりおろしていない丸のままのニンニクをお渡ししています。ニンニクをかじりながら食べている方もいらっしゃいます。すりおろしもあるんですけどね。
メグミさん:私はこのニンニクがないタイプの方がいいですね。
そして、付け合わせにこの茹で汁がついてきます。スープではなく茹で汁なのです。
──茹で汁は最初びっくりしますよね。
杉本さん:茹で汁の説明が、ちょっと言葉は悪いんですけど、最初面倒だったんですよ……。
──どうやって使うかわからないですよね。お客様にはどのように説明するんですか?
杉本さん:えーと、「飲んでください、これは茹で汁です」「麺にかけないでください」(笑)。でも忙しくてわーっとなってる時には説明に時間がかけられないんです。なので、メニューを一新した時に、なぜ茹で汁かという説明を書いておいたんです。だから『タモリ倶楽部』で茹で汁をフィーチャーしてくれたのがすごくうれしかったんですよ。タモリさんが、おいしいおいしいと茹で汁を飲んでいました。
──言わなくてもわかってくれる。
杉本さん:そうです。それをご存知で来てくださると、すごく助かります。
それでは、いよいよ、ヨウポー麺をいただいてみましょう。これは、本場・西安と同じようにベルト麺です。
食べ方は、ビャン大使メグミさんに御指南いただきました。
メグミさん:まずは下の方からしっかり混ぜます。熱々のうちに混ぜないとよく混ざらなくなります。
麺を下の方から持ち上げるようにして、
しっかり混ぜます。タレが下に入っているのでこれを全体によく絡めます。
このくらい混ぜたら完成。
では、いただきます。
メグミさん:食べ方なんですが、絶対、ズルズルすすらない方がいいです。そもそもすすれない麺なんですよ。もしかしてそれで、食べにくいと思う人もいるかもしれないです。
──こうやって、一口食べて噛んじゃっていいんですか?
メグミさん:はい、もう噛んじゃってください。どうぞ噛んでください。そもそも太くてすすれないし中国の麺文化ではすすらないんです。
ベルト麺のヨウポー麺、モチモチの麺が唐辛子とコクのある醤油ダレと油と絡み合い、そこにもやしとキャベツが食感のアクセントになり、刻んだチャーシューがさらに旨味を添えて、いつまででも食べていたいような味わいです。
たしかに、この食感はすすらずにしっかり噛んで味わいたいです。
──中国ではラーメンもすすらないんですか?
メグミさん:はい。すすらないです。もっと麺の食感を楽しむべきだと思います。
そして、途中で茹で汁を飲みます。まったく味の付いていないこの茹で汁で口の中がリセットされます。
▲トマト麺(850円)
お次は、定番二番手のトマト麺。少し甘酸っぱいトマトソースとふわふわの玉子が絡んだやさしい味です。こちらの麺はデフォルトの幅広麺で。
きしめんくらいの太さです。
こちらもよく混ぜていただきます。ベルト麺よりも柔らかくやさしい食感。胃腸が弱っている時でも食べられそうです。
秦唐記の最新情報、お得な情報はお店のツイッターをチェックしてみてくださいね。
ビャンビャン麺はここでも食べられる!
日本各地、そして中国でもビャンビャン麺を食べ歩いているビャン大使メグミさんに、色々なところで食べられるビャンビャン麺情報も伺ってみました。
──今まで何軒のビャンビャン麺に行かれましたか?
メグミさん:西安以外だと、日本では7軒、あと香港で1軒。香港はそのために行きました。
──他の人に食べに行ってもらう「遣ビャン使」というのもあるんですよね?
メグミさん:そうなんです。今のところ、ニューヨークとパリとシンガポールと台湾。ロンドンにもあるんですが、まだ行ってないんです。あとブタペストにもあって、外観の写真はみんな送ってくれるんですが、まだ誰も中に入ってくれない。「ビャン」の字があるけど、すごくおしゃれな店でおしゃれすぎて入れないみたい(笑)。
──世界中に中国の人がいるから、ビャンビャン麺も世界に広がっているんですね。
メグミさん:そうですね。あとカンボジア。カンボジアのシェムリアップにあるって報告を友人から受けました。ビャンビャン麺がどこどこにあった、とか行ったとかいう報告を受けることが多いです。
──世界のビャンビャン麺情報がメグミさんに集まってきているんですね(笑)。ちなみに、日本国内のおすすめ店って他にありますか。
メグミさん:まずは奈良の王楽園です。西安から帰国後に日本でビャンビャン麺を食べられるところを探したら奈良の店が見つかったので行ってきたんです。ここはすごいんですよ、駅前ビルのレストランフロアにあって、本当に普通の中華料理店で餃子とか他の麺もあって、その中で普通にビャンビャン麺があるんですよ。
それで普通の家族連れが普通に「ビャンビャン麺ください」って。東京だとちょっとマニアックな人が食べるってイメージなんですけど、生活に根付いていて、ラーメン食べる、みたいな感じなんです。
──そこは店の人が西安出身なんでしょうか?
メグミさん:そうなんです。西安出身で日本でずっと生活されている方が西安の味でやってるんです。普通の中華のセットもあるんで、割合がちょうどいいんです。みんながビャンビャン麺を食べるわけじゃないので。
味は西安で食べたのよりもおいしいくらいです。黒酢が効いててさっぱりしていてニンニクはそんなに効いてないんです。酸味と辛味がちょうど良くて肉が少なめで。
メグミさん:都内だと上野のアメ横にある平成福順は、中国大陸以上に大陸的です。ニンニクがかなり効いていて暴力的(笑)。安い。そして、アウトドアなので天然の空調が効いています(笑)。
──ここは私も好きです。おいしいです。でも本当にニンニクが多いので食べた後はまっすぐ家に帰ります(笑)。
メグミさん:横浜中華街に行ってビャンビャン麺が食べたくなったら東珍味 小籠包ですね。牛肉で辛いです。一番太い麺で2~3センチで締めていて硬い、パスタっぽいです。
──メグミさんの、ビャンビャン麺を選ぶ際のこだわりってありますか?
メグミさん:やはり麺が手打ち、というのにはこだわりたいです。モチモチなタイプが好きです。都内なら、手軽さも味も秦唐記が好きですね。
──ありがとうございました。ビャンビャン麺めぐりがしたくなりました。その際にはまたご助言よろしくお願いいたします。
ビャン大使メグミさんにお手伝いいただいて、多方面からビャンビャン麺の魅力を探った今回の企画、いかがでしたか?
きっと、すぐにでもビャンビャン麺を食べに行きたくなったはず。
そして、名前は同じビャンビャン麺でもタイプは色々。
あなたはどこのビャンビャン麺がお好きでしょうか?
お店情報
秦唐記(しんとうき)
住所:東京都中央区新川1-13-6
電話番号:03-6280-5899
営業時間:ランチ11:00~15:00(LO 14:30)、ディナー17:00〜23:00(LO 22:30)
定休日:無休
書いた人:工藤真衣子
カメラマン。美しい人が好きなのでグラビア、音楽が好きなのでライブ写真、映画やドラマが好きなのでスチール写真、美味しい食べ物が好きなのでグルメ写真。雑誌、WEBなど各メディアで活動中。趣味は美味しい料理を作って食べること。子供写真スタジオ「アトリーチェ」の経営もしております。
"に" - Google ニュース
December 24, 2019 at 04:30AM
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ガチ中華の最終兵器「ビャンビャン麺」が最高にうまい店【世界一難しい漢字の麺】 - メシ通
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