アメリカの英語辞書「メリアム=ウェブスター」が、今年の言葉に「they」を選んだ。メリアム=ウェブスターはすでに「they」の項に、性自認が男性でも女性でもないノンバイナリーの人たちを表す単数形の代名詞という意味を追加している。
メリアム=ウェブスターのウェブサイトでは、「they」の検索件数が昨年から今年にかけて313%増加したという。
伝統的に「彼が~」「彼女が~」などと表現する際に「he」「him」「she」「her」など性別限定の代名詞を使ってきたのに対し、ノンバイナリーの人については単数でも「they」「them」を使うという用法だ。
イギリスのシンガーソングライター、サム・スミスさんは3月、自分がノンバイナリーだと公言。9月にはインスタグラムで、自分を表す代名詞は「they」や「them」だと発表した。
代名詞を発表する際、スミスさんは、「これからもたくさんの間違いや、間違ったジェンダー表記があるでしょうが、私がお願いしているのはただ、努力してほしいということ。私が自分を見ているのと同じように、皆さんが私を見てくれることを願っています」と語っていた。
今年は他にも、さまざまなノンバイナリーの著名人がニュースをにぎわせた。
ノンバイナリーのモデル、オスロ・グレイスさんは1月、ファッション誌「ヴォーグ」や「デイズド・アンド・コンフューズド」などで、「自分は少年と少女の本物のミックスだと自認している」と自らの性自認(their gender identity)やファッション業界について語った。この「自らの」という箇所を英語で書く場合、伝統的には単数の女性についてなら「her」、単数の男性についてなら「his」と書くところを、「their」と書くのが、ノンバイナリーに対する代名詞「they」の使い方の一例だ。
同じくノンバイナリーのモデル、アイシャ・タン・ジョーンズさんも、9月に拘束服などをモチーフにしたグッチのショーで、「メンタルヘルスはファッションじゃない」と両手に書き、コレクションに抗議した。
イギリス国内でも、ノンバイナリーのアーティストの活躍が目立った。
俳優トラヴィス・アラバンザさんの演劇「バーガーズ」は、トランスジェンダー差別主義者からハンバーガーを投げつけられるという実体験を元にしたもの。
また、ムスリムで、「グラムロウ」の名でドラァグクイーンをしているアムロウ・アル・カーディーさんは自伝を発表した。
著名人がきっかけで躍進
メリアム=ウェブスターのピーター・ソコロウスキー編集長はAP通信の取材で、「they」の検索件数はオスロ・グレースさんの記事やサム・スミスさんの発表をきっかけに伸びたと説明。
また、アメリカのプラミラ・ジャヤパル上院議員(ワシントン州選出)が、自分の子どもが性別の表現が従来の文化的な規範に当てはまらない「ジェンダー・ノンコンフォーミング」だと話した時や、4月のLGBTQ(性的マイノリティー)の権利に関する法案をめぐる議論の時にも注目が集まったと話した。
メリアム=ウェブスターは声明で、「個人の代名詞という基本的な単語でさえ、検索データのトップに踊り出ることがある。これは意外なことだった」と説明し、それが「今年の単語」決定につながったと述べた。
「我々のサイトの検索件数はニュースになった出来事に左右される一方、辞書は言語そのものついての重要な情報源になっている。『they』の使い方の変遷は、ここ数年で多くの研究や論説の対象になっている」
「英語は、『everyone(みんな)』や『someone(誰か)』に相当する、性別に中立的な単数形の代名詞がないことで有名だ。その結果、600年以上にわたって『they』が代わりに使われてきた」
ニュース関連用語にも注目
メリアム=ウェブスターの今年の言葉の候補には、ニュースに関連する単語が多かった。「impeach(弾劾する)」や「quid pro quo(対価)」などは、ドナルド・トランプ米大統領に対して進められている弾劾調査から来ている。
また、「camp(皮肉でユーモラスで大げさに華やか、などの意味)」は、米メトロポリタン美術館(MET)の服飾研究所が資金集めを兼ねて毎年開くパーティー「メット・ガラ」のテーマになったことで注目を浴びた。
イギリスの辞書「コリンズ」も11月、新たに「ノンバイナリー」という単語を、自らを男性とも女性とも自認していない人たちを表す言葉として追加した。
しかし、同社が今年の言葉に選んだのは、国際的な気候変動への抗議運動を受けた「climate strike(気候ストライキ)」だった。
メリアム=ウェブスターが過去に選んだ「今年の言葉」は、2018年が「justice(正義)」、2017年が「feminism(フェミニズム)」、2016年が「surreal(シュール)」、2015年が「-ism(なになに主義)」、2014年が「culture(文化)」だった。
(英語記事 Merriam-Webster names 'they' its word of the year)
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December 12, 2019 at 03:02PM
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