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比ミンダナオ自治区にみる国家建設という開発課題 - 日経ビジネス電子版

全4195文字

 2019年12月、フィリピンで起きた選挙暴力について10年越しの判決が出た。09年11月、州知事選挙をめぐって、ミンダナオ島ムスリム・ミンダナオ自治区内のマギンダナオ州で白昼堂々58人が殺害された。現役知事の家族による、政敵家族に対するの一方的な殺害であったこと、32人のジャーナリストが巻き添えで殺されたこと、さらに殺害された政治家関係者のほとんどが女性だったことなどから、当初から「虐殺」事件として報じられた。

裁判所の周辺で判決を待つ人々(写真:AP/アフロ)

 なお、発生当初、事件現場の州名を取って「マギンダナオの虐殺」と報じられていたが、今では事件現場の町名であり、首謀者家族の名前でもある「アンパトゥアンの虐殺」と呼ばれることが多くなった。証言に立とうとした目撃者3人が殺されるなど、裁判自体の成立も危ぶまれたことを考えれば、地裁レベルとはいえ判決に至っただけでも一定の評価に値する。

 ムスリム政治家一族が、別のムスリム政治家一族を虐殺したこの事件から、この地域の課題は、キリスト教徒とイスラム教徒との宗教対立という図式だけではとらえきれないことが分かる。この事件の背景を掘り起こしていくと、ムスリム・ミンダナオ地域の政治的暴力の淵源は、この地域独自の宗教対立ではなく、中央政府がフィリピンの地方開発の問題をいかに軽視してきたか、にあることが浮かび上がる。

 本コラムではまず、長くミンダナオの平和構築に尽力し、政府と反政府勢力との和平交渉にも関わった市民運動家フランシスコ・ララ氏の労作『反乱、氏族と国家―フィリピン、ムスリム・ミンダナオにおける政治的正統性と繰り返す紛争』を手掛かりに、ムスリム・ミンダナオの課題を理解する。そのうえで、この地域の開発に長く関与してきた国際協力機構(JICA)の取り組みを通じて、開発課題としての国家建設について考える。

 なお、JICAの取り組みについては、JICA職員で、ミンダナオ地域の平和構築と開発に深く関わった落合直之氏の著書『フィリピン・ミンダナオ平和と開発―信頼がつなぐ平和の道程』がある。ムスリム・ミンダナオ地域に長く住み、「地べた派」を自称する同氏ならではの開発現場の苦労とやりがいが伝わる好著であり、本コラム後半の記述のほとんどは同書に負っている。

宗教対立に、民族・氏族の対立が重なる

 ムスリム・ミンダナオ自治区(19年以降、バンサモロ暫定自治区に再編)は、フィリピン南部に位置するミンダナオ島南西部と、スールー海に浮かぶ3つの島からなる。この地域では、モロ民族解放戦線(MNLF)や、そこから派生したモロ・イスラム解放戦線(MILF)が、フィリピン政府に対する武装反乱を続けてきた。中央政府は、MNLFとは1996年に、MILFとは2014年に和平合意を成立させ、その後は自治権限を拡大する方向で自治区を再編した(自治区の創設は1990年)。いずれの局面においても、宗教対立に注目が集まってきた。しかしながら、イスラム教徒対キリスト教徒というのはこの地域の政治暴力のパターンの一つにすぎない。

 アンパトゥアンの虐殺は、自治政府知事と自治区内にあるマギンダナオ州知事という2つの職を押さえたアンパトゥアン家が、知事選挙に立候補しようとしたマグダダトゥ家の影響力を削ぐために企図した。アンパトゥアン家、マグダダトゥ家のいずれも、マギンダナオ州の有力ムスリム一族である。

 アンパトゥアン家が自治政府知事という要職に就いた背景には、MNLF議長ヌル・ミスアリによる自治政府統治の失敗がある。ミスアリ議長は、96年の和平合意後、選挙を経て自治政府知事に就任。ムスリム・ミンダナオ地域は新時代を迎えると期待された。

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January 17, 2020 at 03:13AM
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