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中東の派遣先に行ってみた! ~自衛隊は何をするのか | 特集記事 - NHK NEWS WEB

ついに中東に向け出発した、自衛隊の派遣部隊。
どこで何をやるのか、派遣先の事情は知られていないことも多い。
去年の末に中東の関係国などを相次いで訪れた河野防衛大臣。私は大臣に同行して現地に入った。その様子を振り返り、自衛隊派遣について考えたい。
(地曳創陽)

「たかなみ」出港

海上自衛隊横須賀基地に所属する、ヘリコプターを搭載する護衛艦「たかなみ」。出港の日、安倍総理大臣や河野防衛大臣の視察に合わせて、私も艦内に入った。

操船などを指揮する艦橋の窓の部分の内側には、新たに防弾ガラスが取り付けられていた。

甲板には、不審な船に音声で警告するための「LRAD」、自衛隊員たちは「エルラド」と呼ぶ特殊な拡声機が設置されていた。1キロ以上先の船にも音声が届くという。

出港前、隊員たちは家族と記念撮影などをして、しばしの別れを惜しむ様子が見えた。家族の中には、隊員が船に乗り込むと、涙を見せる姿もあった。

自衛隊を海外に派遣することの重みを、改めて感じた。

遠き国、バーレーンへ

「たかなみ」の出港に先立つ、2か月余り前――
河野防衛大臣はホルムズ海峡の内側、ペルシャ湾に浮かぶ島国、バーレーンを訪れていた。

現地で開かれた、安全保障をテーマにした国際会議に出席する各国の関係者に、当時検討を進めていた自衛隊派遣について説明し、理解を得ることが目的だった。

河野大臣はバーレーン国軍の司令部も訪れ、ハリファ司令官とも会談した。

まるで中東のおとぎ話に出てくる宮廷のように装飾が施された司令部での会談は、どちらかというとのんびりとした雰囲気で、私たち取材陣にも独特の苦みと風味があるアラビアコーヒーが振る舞われた。

会談を終えた河野大臣は自衛隊派遣について「ネガティブな反応はなかった。非常に好意的だった」と、手応えを示した。

そう、バーレーンを訪れることには、大きな意味があったのだ。

なぜバーレーン?

東京23区と川崎市を併せたほどの面積の、バーレーン。

対岸のイランまで、およそ200キロの位置にある小国が、ペルシャ湾において、軍事的に重要な拠点となっていることは、日本ではあまり知られていない。

ここには、アメリカの第5艦隊からなるアメリカ中央海軍の司令部が置かれているのだ。通常は空母1隻が配備されている。

日本が参加するアフリカ・ソマリア沖の海賊対策の多国籍部隊の司令部も、ここアメリカ中央海軍司令部に置かれている。

アメリカが主導しホルムズ海峡などの安全確保にあたる、有志連合の司令部もここにある。日本は、有志連合への参加は見送ったが、アメリカ中央海軍の司令部には、自衛官を派遣して、情報収集にあたることにしている。

河野大臣は司令部を訪れたが、緊張が続く中東のアメリカ軍の施設だけに、同行取材は認められず、施設の周辺を撮ろうと、カメラを構えようとしただけで、銃を持った警備員に撮影をするなとすごまれた。

改めてバーレーンが、アメリカにとって欠かせない、軍事的な足がかりであることを感じた。

実は別の艦艇がすでにペルシャ湾に!?

今回の自衛隊派遣では、「たかなみ」の活動範囲はバーレーンがあるペルシャ湾は含まれない。日本の伝統的な友好国であるイランを刺激するのを懸念したものとみられる。

しかしそのペルシャ湾で、去年10月下旬から11月中旬にかけて、海上自衛隊の艦艇2隻が堂々と活動を行っていたことをご存じだろうか。掃海母艦「ぶんご」と掃海艇「たかしま」だ。

およそ180人が乗り込んだ2隻は、ペルシャ湾でアメリカ中央海軍が主催した国際海上訓練に参加したのだ。
参加国は50余り、40隻以上の艦艇が機雷の処理などの訓練を行った。

訓練の合間には、アメリカをはじめ各国の担当者が「ぶんご」を訪れて、海上自衛隊の機雷処理の能力などについて説明を受けた。

「アメリカと一体」と見られないのか

こうしたアメリカとの訓練に参加して連携を深める中、今回行われる自衛隊の中東派遣。政府は「日本独自の派遣」と説明するが、アメリカと一体化していると見られるといった懸念はないのか。

専門家の見方は分かれている。

元防衛官僚で、内閣官房副長官補を務めた栁澤協二氏は、中東情勢の見通しが不透明な中、派遣にリスクはあると指摘する。
「『有志連合には入ってない』と言っても、アメリカの求めに応じて『軍艦』を出しているので、敵対感情が交錯する中で、日本の取り組みが悪意に解釈される可能性もある」

「状況が非常にこんがらかっている時に、プレゼンス(=存在)を示すということは単純な話ではなく、こちらとしては防衛的な措置のつもりが、相手に対しては敵対的な行為と映る、典型的な『安全保障のジレンマ』に陥りやすい」

一方で、防衛研究所の主任研究官で、中東地域の国際関係や安全保障が専門の小塚郁也氏は、懸念はあたらないとする。
「中東周辺の海域は、去年より最近の方が安全性が高まっている。イランが何か問題を起こすと、国際社会を敵に回してしまう状況になっているから、イランが事を起こすのは利益にならない」

「安倍総理大臣が、来日したイランのロウハニ大統領に直接、海上自衛隊の派遣について説明し、ロウハニ大統領が理解を示したと報じられている。安全航行の確保の必要性は、イラン側だって認めざるを得ない」

「拠点」ジブチは縮図だった

去年12月、自衛隊派遣を閣議で決定した直後、私は河野大臣を追ってジブチ、そしてオマーンに赴いた。

このうちアフリカのジブチは、自衛隊派遣で哨戒機の拠点となる。

ここは紅海とアラビア海を結ぶバーブルマンデブ海峡の先に位置し、海上交通の要衝だ。

自衛隊の拠点は空港に隣接していて、そばにはアメリカやフランスの基地があり、中国も基地を拡大させていた。各国が軍事的なプレゼンスを競って示しているように見えた。

実際、中東地域のシーレーンの安全確保をめぐっては、各国がさまざまな形で関わる。

アメリカが結成した有志連合には、サウジアラビア、バーレーン、UAEなど7か国が参加。フランスは、オランダやデンマークに呼びかけてヨーロッパによる安全確保のための枠組みづくりを進めている。インドや韓国は独自に部隊を派遣した。

こうした状況について、小塚氏はこう話す。
「いまは、勢力バランスが変動する端境期で、紛争が起きやすい時期でもある。影響力を強めていこうとする国は、ポジション取りをする時期でもある。日本は反米側の国とも、親米側の国とも話ができる恵まれた立場にいるわけだから、自衛隊のプレゼンスを示しておく。これは外交の鉄則だ」

「要衝」オマーンで見えたのは

一方、アラビア半島の南東、オマーンは、ホルムズ海峡の外側、オマーン湾とアラビア海に面した要衝。これまでも海賊対策にあたる海上自衛隊の護衛艦が、燃料や食糧の補給のために利用している実績もあり、今回の派遣でも港を活用する方針だ。

「非同盟・中立」、「善隣外交」を外交の基本方針とするオマーン。
訪れた時は気候も穏やかで、波打ち際では、観光客らしい外国人が、海水浴を楽しんでいた。

だが、穏やかなビーチの先、ホルムズ海峡では、日本に関係するものだけでも、年間およそ3900隻の船舶が航行し、このうち、およそ2600隻がタンカーだ。

船舶が発信する位置情報をもとに航路を公開している民間のホームページ「マリントラフィック」でもホルムズ海峡を、無数の船が航行しているのがわかる。

中東から原油を運ぶタンカーにとって、玄関口となるオマーン沖は、日本のシーレーンにおいて、重要な位置を占め、護衛艦はここを中心に活動することになると見られる。

自衛隊は、何をどこまで守れるのか

政府は、不測の事態が起きた場合、自衛隊に「海上警備行動」を発令して、日本関係船舶を保護するとしている。

だが限界がある。

国際法では、船舶の保護は、その船の船籍が登録されている政府が行う「旗国主義」という原則があるためだ。日本人が乗っていたり、日本の企業が運航していたりしても、外国籍であれば自衛隊が武器を使用しての実力行使は難しい。去年6月に襲撃された、日本の海運会社が運航するタンカーは、船籍が外国だった。

こうした状況を踏まえて、栁澤氏は自衛隊が日本のシーレーンを守ることは困難だと言う。
「襲ってくるとすれば、海賊ではなくて、イランや、イランに関連する武装勢力、国または国に準ずる相手ということになる。武器を使って応戦しようとしたら、自衛権を主張しなければいけないはずで、防衛出動でないといけない。あくまで海上警備行動では、国や国に準ずる相手に対しては動けないということを、どう考えるのかという問題が残る」

「本当に自衛隊が行って、仮に海上警備行動をやったって、日本に行くタンカーを守れるんですか、と。守れても、非常に限定的でしかない。プレゼンスを示すというのは、軍事大国的な発想だ。身の丈にあったことをやらなければダメだ」

前述の「いまだからこそ、自衛隊のプレゼンスを高めることが重要」と強調する小塚氏とは、異なる意見だった。

小塚氏は「今回はイラン側ときちっと話をつけて、アメリカとも話をつけた上で派遣していて、戦後初めてといえる日本独自の取り組みだ。オマーン湾などの活動は、そんなにリスクがないことを考えれば、状況がエスカレートした場合に備えて、情報収集するのはあり得る」と派遣の意義を話していた。

自衛隊派遣の考え方は、国の進むべき方向につながる

自衛隊の中東派遣について、異なる意見を持つ専門家2人に話を聞いたが、その違いは、国の進むべき方向性についての考えが大きく異なることから生じているように感じた。

今回の派遣が、今後の日本の安全保障にどのような影響を与えるのか、取材を続けていきたい。

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February 12, 2020 at 08:00AM
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