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スタイリスト 北村道子さんに訊く── 「男たちよ、スカートをはきなさい!」 - GQ JAPAN

いつも男友達とばかり遊んでいたという少女時代の北村道子。ほかの女の子がおままごとをしていても、自分は男たちと缶けりに興じる。そんな彼女が自らの〝性〟を自覚せざるをえない強烈な出来事があった。

「一緒に遊んでいた男の子たちが、みんな並んで立ち小便で放物線を描いている。でも、私はそれができない。そのときに『こいつらにはかなわない』って思った。はっきりコンプレックスを感じた。どうやったら男の子と同じようになれるんだろうって。それでスカートの下に半ズボンをはくようになったのよ。そうしたらそれが女の子の間で流行りはじめて、みんなが真似するようになった(笑)。まあ、石川県は雪国だから半ズボンが防寒の役割を果たしたこともあったのかもしれないけど、そんなふうに〝文化〟が生まれたのを面白いと思っていたね」

10代から世界を放浪し、20歳から雑誌や映画などの衣裳の仕事にかかわるようになった。50年にもおよぶ北村道子のスタイリストとしての歴史は、日本の映画、ファッションの歴史と重なる。写真家や監督、そして俳優と真正面から向き合い、ときには衝突してでも、自らのスタイリングを貫く。その膨大なフィルモグラフィーのすべてを書き連ねることはできないが、『それから』(1985年・森田芳光監督)、『幻の光』(1995年・是枝裕和監督)、『CASSHERN』(2004年・紀里谷和明監督)、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(2007年・三池崇史監督)など、数々の日本映画史、ファッション史にのこる名作の衣裳を彼女が手がけている。

「私は自分が見たいものを見たい。もっといえば、見たことがないものを見たい。誰に着せるかということを考えると、すぐに着せたい服が浮かびます。人間の身体はリアルで、服はフェイク。そのふたつが合体したときに現実と嘘との間の世界があらわれる。そこの部分を見たいと思ってしまうんです」

現実にはありえない。でもまったくの嘘ともいえない。その世界をつくり出す仕事を、彼女は、「ペテン師」と呼ぶ。2008年に発売された北村道子の著書『衣裳術』(リトルモア)でその数々のペテンを確認することができる。彼女が手がけた映画で、俳優たちが身につけているのは時代背景などを無視したかなり奇抜なものが多いことに気づく。だが、その映画を観た記憶をたどってもその衣裳のことは思い出せない。その映画に、物語に衣裳が溶け込んでいるのだ。あらためて北村のペテンのあざやかさを知ることになった。

「私は最高のペテン師になりたい。最高の映画って、それが現実の世界だと思えること。たとえば『アイリッシュマン』なんて脇役のひとりひとりまで、実在するかのように描いている。『タクシードライバー』が何十年たっても語り継がれるのは、デ・ニーロが演じたトラヴィスの実在感があってこそ。リアリティを追求しながらファンタジーがある。観る人をそんな素敵なペテンにかけられたらいいな」

ペテンのため、見たことがないものを見るためなら、どんな手もつかう。男性に女性用の服を着せることは、〝ジェンダーレス〟という言葉が生まれる何十年も前からやってきたと語る。

「女の服って胸と尻で着るんだけど、男の服は背中で着るようにできている。デザインの根本がちがうからこそ、そこに見たこともないものが生まれる。ファッションショーとかでも、男にスカートをはかせてデザイナーにえらく怒られたこともあったなあ(笑)」

そんな北村は、現在のファッション界のジェンダーレス化をどう見ているのだろうか?

「従来のルールとか規範がどんどん流動化して、これからの世の中はますますジェンダーフリーになっていくと思う。ファッション界はその意識の変化の先取りをしているんじゃないかな。意識のウォーミングアップみたいなもの。でも元禄時代には男が女みたいな格好をしていたわけだし、スコットランドなんて寒い国なのにずっと男がスカートをはいている。そう考えたら男がワンピースを着たり、スカートをはいたりするのもたいそうなことじゃない。気になるならためらわずやってみればいいのよ。積極的にやって、時代の変化を感じてみれば、いろんなことがわかる。そうやっていろんなボーダーをなくしていけば、争いごとのない美しい世界になっていくと思う。男たちよ、スカートをはきなさい!」

さあ、ためらうことはない。あなたも彼女の素敵なペテンにかかってみようではないか。

『衣裳術』

故・松田優作氏に映画の世界へ引き込まれ、日本映画界の中で異彩を放つ20作品以上の映画の衣裳を手がけてきた、スタイリスト・北村道子の仕事を衣裳写真とインタビューで振り返る。(2008年・リトルモア)

『衣裳術 2』

俳優34人、写真家6人との10年にわたるコラボレーションを記録した写真126点、録り下ろしインタビューを収録。スタイリングや撮影の背景にとどまらず、アートや、仕事論、自身のルーツまで語る。(2018年・リトルモア)

PROFILE

1949年、石川県生まれ。サハラ砂漠やアメリカ大陸、フランスなどを放浪ののち、30歳頃から、映画、広告、雑誌等さまざまな媒体で衣裳を担当する。映画衣裳のデビューは85年の『それから』(森田芳光監督)。2007年に『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(三池崇史監督)で第62回毎日映画コンクール技術賞を受賞した。著書に『Tribe』(朝日出版社)、『COCUE』(コキュ)、『衣裳術』『衣裳術 2』(ともにリトルモア)。

Photo 鶴田直樹 Naoki Tsuruta@countach.tv / Words 川上康介 Kosuke Kawakami

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March 21, 2020 at 06:13PM
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