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新型コロナウイルス感染症の治療には、当面は「既存薬の転用」が現実的な選択肢になる|WIRED.jp - WIRED.jp

新型コロナウイルスワクチンや治療薬の開発が世界中で進められており、その一部は臨床試験も始まった。しかし、完成までには時間を要する。このため当面は既存薬の転用が現実的な選択肢として浮上しており、人工知能なども活用しながら有効な薬剤を見つけ出す試みが続けられている。

WIRED(UK)

COVID-19

FEATURE CHINA/BARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の重症患者で埋まった集中治療室(ICU)では、人工呼吸器が使われている。だが、この装置では根本的な原因であるウイルスを倒すことはできない。新型コロナウイルス(正式名称は「SARS-CoV-2」)を体内から完全に排除できるような新薬を開発するには、細胞や実験動物を使った薬理研究から前臨床試験を経て、患者を対象とした臨床試験を実施する必要がある。そして、この過程には通常は何年もの時間がかかる。

感染者数は世界全体で550万人を突破したが、有効なワクチンが完成するのは早くとも12カ月先になるとも言われている。こうした状況で専門家たちは、当面は既存薬を利用した治療に取り組んでいくことになる。新型コロナウイルスがどのように細胞内に侵入し、感染者の体を乗っ取っていくかについての研究を参考に、何千種類もある医薬品のリストから重症者に投与して効果のありそうなものを探していくのだ。医療現場では試行錯誤のアプローチが続けられている。

珍しくはない既存薬の転用

ある疾患のための薬を別の疾患の治療に用いることは決して珍しくはなく、多くの国で合法とされている。特に新しく発見された病気や、投資回収が見込めないことで製薬会社が医薬品開発をためらうような希少疾患の場合は、既存薬の転用はごく一般的だ。米国では医薬品の5分の1が「適応外」で処方されている。

転用薬はほとんどが偶然の産物だ。例えば、シルデナフィルは「バイアグラ」の有効成分だが、元は狭心症の治療薬として開発されていたものが、治験の段階で勃起不全にも効果があることが明らかになった経緯がある。

また、ボツリヌス菌がつくり出す毒素であるボツリヌストキシンは、最初はまぶたのけいれんを抑えるために使われていたが、現在は脳性麻痺患者の筋肉のけいれん防止や、慢性片頭痛にも処方される。さらに、目の周りに注射するとしわが薄くなることが発見されてからは、ボトックス注射として多額の利益を生み出している。

偶然を待っている時間はない

だが、新型コロナウイルスのような緊急事態においては、偶然を待っている時間はない。ウォーリック大学助教授で医薬品の転用と医療技術革新を研究するアイファ・アリは、「高度な技術を駆使して、どの既存薬が有効なのか探る試みが続けられています」と話す。

いまこの瞬間にも、複雑なネットワークの解析や人工知能(AI)を用いた研究が進められている。アリは「理論的に有効であるという予測を立ててから実際に治療に役立つことが証明されるまでには、長い道のりをたどらなければなりません」と言う。

世界各地でありとあらゆるものを使った数百件に上る臨床試験が進められている。その内容は、回復期の患者の血しょうからハチミツに含まれる栄養成分、オメガ3脂肪酸までさまざまだ。オックスフォード大学が進める165の医療機関の5,000人以上を対象とした大規模な治験プロジェクトでは、患者は標準治療に加え、5種類の医薬品のいずれか、もしくはプラセボ(偽薬)を投与される。

ヒドロキシクロロキンの有効性には疑問符

対象薬のひとつであるヒドロキシクロロキンは、マラリアの予防・治療薬として知られるが、関節リウマチや全身性エリテマトーデスといった自己免疫疾患の治療にも使われる。この薬剤とやはり抗マラリア剤のクロロキンを巡っては、研究室での理論実験の初期段階で有望な結果が出たと報じられた直後に、トランプ大統領が大騒ぎしたことで名が知られるようになった。

ただ、そのあとに複数の臨床試験において、治療効果がないことに加えて健康に害を及ぼす恐れすらあることが明らかになっている。退役軍人368人を対象にした米国での臨床試験では、ヒドロキシクロロキンを投与した場合、人工呼吸器を装着する必要性や死亡リスクが高まるという結果が出た。

なお、この結果はまだ専門家によって検証されていないほか、対照群もないことから、被験者がそもそも重症化しやすいグループだった可能性はある[編註:世界保健機関(WHO)が5月25日にヒドロキシクロロキンの安全性への懸念を示し、臨床試験の一時中断を明らかにしている]。

“治療薬”として認められたレムデシビル

一方、米食品医薬品局(FDA)は5月1日、抗ウイルス薬のレムデシビルに緊急使用許可(EUA)を出した。レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として開発された化合物だが、ウイルスのRNA転写を阻害するため、COVID-19でも回復を早める効果があるとの臨床結果が出ている。

関連記事エボラ治療薬「レムデシビル」は、新型コロナウイルスの“特効薬”になりうるか

世界各国の75の医療機関で1,000人以上を対象に行われた治験では、回復に要する時間が平均で15日間から11日間に短縮した。ただ、すべての結果が良好だったわけではなく、例えば中国で行われたある小規模な治験では、レムデシビルの投与と回復期間との間には有意な相関関係は見られなかった。なお、この治験では被験者はすでに回復期に入った患者だった。

クイーンズ大学ベルファストでウイルス学のフェローを務めるコナー・バンフォードはレムデシビルについて、「プラスの効果はありますが、治療薬とまでは呼べません」と説明する。COVID-19による死亡を阻止できるかは不明だが、感染の初期段階であれば大きな効果が認められるかもしれないという。

また、レムデシビルは静脈注射剤であるため、被験者は医療機関で投与を受けることが必要になる。だが、安全性と効果が確認され次第、COVID-19の標準治療に取り入れられる予定だ。一方、米国のエモリー大学の研究者たちによってRNA転写を防ぐ錠剤の開発が進められており、こちらは年内の臨床試験の開始が計画されている。

Remedsivir

ULRICH PERREY/POOL/REUTERS/AFLO

試行錯誤は続く

ウイルスそのものを標的にした治療ではなく、人間に本来備わっている免疫系の反応を抑えようという試みも進められている。免疫システムは細菌やウイルスが体内に侵入した場合に体を守ってくれるが、異物だけでなく自分自身の正常な細胞や組織に対しても攻撃を加えてしまうことがあるからだ。この結果、肺やその他の臓器に深刻な損傷が生じ、死に至る場合もある。

成人のCOVID-19患者では、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応が頻繁に生じる。バンフォードは「感染症であることから複雑ですが、免疫系の働きを完全にゼロにしてしまうことがないように注意する必要があります」と語る。ステロイドや関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬は免疫系の過剰反応を抑える一方で、体がウイルスと戦う能力に大きな影響を及ぼす恐れがあるからだ。

関連記事新型コロナウイルスは、HIVウイルスのように免疫系を破壊する? その鍵は「T細胞」が握っている

ウォーリック大学のアリは、対照群を設けた大規模な無作為比較試験は多大な費用がかかることから、実施は容易ではないと言う。一方で、COVID-19の治療に使える既存薬があるか確かめるには絶対に必要で、各国政府と医療機関の連携が鍵になるとも指摘する。「COVID-19の“いいところ”は、疾病の期間が短いことです。がん治療薬などの場合は、結果が出るまでに数カ月から数年の時間を要します」

パンデミックという緊急事態を前に、世界はできる限りの速さで治療法を模索している。しかし、この先も試行錯誤だらけの困難な旅が続くことになりそうだ。

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May 29, 2020 at 06:00AM
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