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スティーブ・ジョブズが20年前に送り出した“透明な四角い箱”が証明したこと - WIRED.jp

この7月で、アップルの「Power Mac G4 Cube」が発表されてから20周年を迎えた。そしてアップルが「G4 Cube」の生産を“凍結”すると発表してから19年目でもある。氷のキューブと「Cube」を引っかけただじゃれは、この記事のために思いついたわけではない。アップルが公式に生産中止を発表した2001年7月3日のプレスリリースの見出しで使われた表現だ。

2000年夏の「MACWORLD Expo」で、この製品が発表される前夜のことだ。アップル最高経営責任者(CEO)だったスティーブ・ジョブズには、“方向転換”するそぶりなどまったくなかった──。そんなことを、ちょうど20年前に録音したカセットテープを聴きながら思いだした。テープには、「G4 Cube」が発表される直前にカリフォルニア州クパチーノでジョブズと交わした、2時間に及ぶ会話が収められていた。

ジョブズがわたしをアップルの本社へと呼びだした“理由”は、当時の本社「アップル・キャンパス」の役員室にある長いテーブルの上で黒っぽい布に覆われて鎮座していた。

「史上最高にクールなコンピューターをつくったんだ」と、ジョブズは言った。「じゃあ、いまからお見せしましょう」

彼が布をはぎとると、電子機器の塊を内側に浮かべた8インチ(約20cm)四方のずんぐりした透明なプラスティックが姿を現した。それはコンピューターというよりは、フィリップ・K・ディックとルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの間をゆく完璧なコンセプトから生まれたトースターのように見えた(そこにはもちろん、ジョナサン・アイヴの特徴が見てとれた)。コンピューターの隣には、クリスマス飾りくらいの大きさのガラスに似た球体に収められたスピーカーが、ふたつ並んでいた。

「『Cube』です」と、ジョブズは芝居じみた感じで言ったが、興奮を抑えきれないようだった。

「息をのむほど美しい」とジョブズは言った

ジョブズはまず、「Cube」はパワフルだが自然空冷であると強調した(ジョブズは冷却ファンが大嫌いだった。憎んでいたのだ)。電源ボタンはないが、かざした手を感知して電源が入る様子を彼は実際に見せてくれた。また、アップルが「Cube」でディスクのトレイをなくし、スロットの上にディスクをもっていくだけでコンピューターがディスクを呑み込むさまも実演してみせた。

次にジョブズは、プラスティックについて語り始めた。まるで、映画『卒業』のなかでベンジャミン・ブラドックに仕事のアドヴァイスをする男を意識したような口ぶりだった。

「わたしたちは世界の誰よりもプラスティックを理解しています」と、ジョブズは言った。「これらのプラスティックはすべて特別につくったもので、アップル独自のものです。これらのプラスティックをつくるだけで半年かかりました。防弾チョッキまでつくれるんです! 信じられないくらい頑丈で、しかもひたすら美しい。こうしたものはかつて存在しませんでした。どうすればこんなものができるのでしょうか? こんなものは誰もつくったことがありませんでした! 美しいでしょう? 息をのむほど美しいと、わたしは思います」

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ジョブズの「理論」に反する製品

見事であることは、わたしも認めた。それでもジョブズに尋ねたいことがあった。

これに先立つ会話のなかでジョブズは、アップルの製品マトリクスを描いていた。その4つのスペースは、ノートPCとデスクトップPC、ハイエンドとローエンドからなる。そしてジョブズは1997年にアップルに復帰して以降、「iMac」「Power Mac」「iBook」「PowerBook」の4つでこれらすべてのスペースを埋めていた。その“完璧”な製品プランに、G4 Cubeは反していたのだ。

ハイエンドの「Power Mac」にある数々の拡張スロットや大容量なストレージのように、パワフルであることを示す特徴はなかった。それでいて、ローエンドの「iMac」よりはるかに高価だった。専用の外付けディスプレイを除く単品の状態でもだ。

そこでジョブズの逆鱗に触れるかもしれないと思いながらも、わたしは尋ねた。

「いったい誰が買うんですか?」

ジョブズは動揺するそぶりすら見せず、「そんなの簡単さ!」と言った。「大勢のプロフェッショナルがいる。デザイナーはひとり残らず買うことになるでしょうね」

自身のマトリクス理論に反していることを、ジョブズはこう正当化した。「真に画期的な、いわばラヴチャイルドのような製品を中間に生み出すという、とてつもないチャンスがあると気づいたのです」。製品があまりに優れていることで、人々が購入パターンを変えてでも手に入れるのだと、彼はほのめかしていたのだ。

「究極のデザイン」が意味したこと

だが、そうはならなかった。まず、価格が高すぎた。専用のディスプレイまで揃えると「iMac」のほぼ3倍の額になってしまうし、「Power Mac」の一部の機種も超える値段になってしまった。常識的に考えて、芸術作品に払うような額をコンピューターに費やす人などいないのだ。

G4 Cubeの問題はそれだけではなかった。特別なプラスティックは生産が難しく、不良品があると指摘されるようになった。また、自然空冷システムにも問題があった。Cubeの上に紙を1枚置いただけで、オーヴァーヒートしないように電源が切れたのだ。それに電源ボタンがないことで、うっかり手を振っただけで意図せずにコンピューターが反応してしまうことがあった。

いずれにしてもG4 Cubeは、コンピューターの購買層をその気にさせることに失敗した。数百万台は売れるとジョブズは言ったが、販売数は15万台を下回った。アップル的なデザインの極致とは、アップル的な傲慢さの極みでもあったのだ。

当時のテープを聴きながら、わたしは衝撃を覚えた。ジョブズがいかに美意識という万能薬に酔っていたことか。

「この本体に穴を開けて、そこにボタンをつけたいと本気で思うんですか?」と、ジョブズはわたしに問いかけ、電源ボタンがないことを正当化した。「トレイをなくすために、ぼくらがどれだけの労力をこのスロットドライヴに注いだか見てほしい。それなのに、ボタンをつけてその苦労を台なしにしたいんですか?」

G4 Cube

APPLE/GETTY IMAGES

ジョブズが「優れたリーダー」だった理由

だが、ジョブズと彼が生み出した「Cube」のエピソードが物語ることは「失敗」ではない。なぜ彼が「優れたリーダー」だったのかという理由である。Cubeが使い物にならないことがはっきりすると、ジョブズは素早く撤退を決めて前に進んだのだ。

アップル現CEOのティム・クックは17年のオックスフォード大学での講演で、G4 Cubeについて「見事なまでの商業的失敗でした。ほとんど発売初日からです」と語っている。しかし、当時の販売不振に対するジョブズの対応は、どれだけ思い入れの強い製品であっても、彼は必要とあらば素早く切り捨てることができるのだ、ということを示していた。

「スティーブは、わたしがこれまでに出会ったどんな人よりも、ひとつの立場を強く主張することがありました」と、クックは講演で振り返っている。「でも数分か数日後に新しい情報が出てきたら、まるでそんな考えを抱いたことなど一度もなかったかのように立場を変えることができたんです」

それでも彼はG4 Cubeについて確実にそのように考えていたし、証明するテープも手元にある。だから言いたい。スティーブ・ジョブズの“デジタル・ラヴチャイルド”に、誕生日おめでとう、と。

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