アンドレアス・イルマー、BBCニュース
多くの日本人にとって、黒人に対する人種差別はアメリカやヨーロッパで起きているもの、日本国内では起きていないものと考えられてきた。
大都市で行われた抗議活動やデモ行進をきっかけに、日本国内の人種差別についても議論が巻き起こっている。
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醜悪な固定観念
公共放送のNHKは6月、ジョージ・フロイドさんの死を受けてアメリカで何が起きているのかを、日本の視聴者に説明するアニメを作成した。
若者向けの番組で放映されたそのアニメでは、抗議に参加する黒人を醜悪な固定観念の下、非常に人種差別的に表現していた。誇張された筋肉と怒りに満ちた表情、後方には強盗を働く人の姿も描かれていた。
このアニメに対する評価は、おおよそネガティブなものだった。駐日アメリカ大使館は、このアニメは「侮辱的で配慮に欠けるもの」だと批判した。
アフリカ系アメリカ人のバイエ・マクニールさんは、日本に16年住み、教師や作家、コラムニストとして活躍している。
マクニールさんはNHKのアニメについてツイッターに「これ以上(NHKの)怠惰な言い訳は受け入れられない。黒人にまつわる問題について無知だったと言っておきながら、その問題やBlack Lives Matterについて、誰の助言も受けずに、侮辱的な人種差別発言を行う権利があると思っている。助言が必要なら、私たちがここにいる。でもこのひどいアニメは受け入れられない」と投稿。黒人の問題に対する無関心さを批判した。
NHKは後になってこの件について謝罪した。また、マクニールさんのツイートが注目を集めていたことから、彼を招いて問題について話し合った。
マクニールさんはその後、NHKの全従業員に話す機会を得たが、その時の経験は「非常に興味深いものだった」という。
「たくさんの素晴らしい質問を受けたが、そこからは多くの日本人が、なぜブラックフェイス(黒塗り)やホワイト・ウォッシング(白人化)が問題なのかを知らないということが浮き彫りになった。誰かがこうやって説明することが本当に大事だと思った」
ブラックフェイスは、黒人以外が化粧などで黒人の外見を誇張して真似る行為。ホワイト・ウォッシングは、映画などで有色人種の役柄を白人が演じるなど、白人が優遇されている状況を指す。
どちらも人種差別を助長する行為として、近年批判の対象になっている。
マクニールさんのツイートは、賛否両論を巻き起こした。マクニールさんによると、近しい友達や生徒からは、発言を受け止め、歓迎する声が多かった。また、マクニールさんの日本での経験について興味を持った、教えてほしいという言葉も聞かれたという。
一方でマクニールさんは、日本で受けた日常的な人種差別についても指摘した。
「間違いなく、アメリカよりも日本の方が安全です」とマクニールさんは語る。
「アメリカにいたら受けるであろう警察による暴力などはない。でも毎日ちょっとした差別にあい、それが蓄積していく。日常的に部外者扱いされるのは厳しいものがあります」
日本の外国人嫌悪、「人種や民族による」
マクニールさんは自分の経験について、日本で「ハーフ」と呼ばれる、日本人と日本人以外の両親から生まれたバイレイシャル(二重人種)の人々の経験とそう変わらないものだと話す。
さらに、日本にある外国人嫌悪は、ひとつの分かりやすい形が全ての非日本人に当てはめられる、というようなものではないと指摘した。
「どんな血が流れているかによって、その経験は異なる」とマクニールさんは話す。
「白人の血が流れていれば、モデル事務所から声がかかってちやほやされる。でも片方の親が韓国人や黒人だった場合、話は全く変わってくる」
ハイチ人の父親と日本人の母親を持つテニスの大坂なおみ選手も、日本で人種差別の標的にされている。
大坂選手は、日本とアメリカの両方で積極的に人種差別反対を唱えている。
その後、米テニス協会(USTA)、男子プロテニス協会(ATP)、女子テニス協会(WTA)は、27日の試合は行わず、28日に同大会を再開すると発表。「テニス界は一体となって、人種不平等と社会的不公正に反対する」と述べた。
「こうした例を見ると、日本の一般大衆はまだバイレイシャルの日本人を受け入れる準備ができていないように思えます」とマクニールさんは話した。
日本政府による統計では、バイレイシャルの人も「日本人」として記録されている。日本人が日本を人種的に均質な国だと思い、その枠組みに容易にはまらない隣人の存在に気付いていないのは、こうしたことが原因だという。
歴史的な黒人差別
岐阜大学のジョン・ラッセル教授(人類学)はBBCの取材に対し、黒人に対する人種差別は「さまざまな形で日本社会に浸透している」と話した。
19世紀、長く鎖国をしていた日本にアメリカが開国と貿易を迫った時、アメリカ海軍は日本の外交官をミンストレル・ショーでもてなした。ミンストレル・ショーとは、アメリカで20世紀初頭まで行われていた、白人がブラックフェイスで演じる踊りや芝居のことだ。
その後、東京の繁華街では1930年代まで、ヴォードヴィル(流行の曲などを取り込んだ軽演劇)の中で日本人がブラックフェイスを行っていた。当時人気だったコメディアンの榎本健一、通称エノケンも、1920~30年代に何度かブラックフェイスを行っている。
「日本のこうした歴史は、事実、アメリカと同じくらい長い」とラッセル氏は指摘する。アメリカよりも規模は小さく、アメリカ社会とのつながりもないものの、黒人に対する固定観念はずっと続いてきたのだという。
旧来のメディアが持つこうした視点への批判を、ソーシャルメディアが展開してきた部分もある。しかしそれは「玉石混交」だとラッセル氏は話す。
「人種差別に関する対話を促進するものだが、人種差別そのものを助長してもいる。SNSが、辛辣(しんらつ)な言葉を表面化させる場となっている」
たとえば、大坂選手がインターネット上で受け取る攻撃などがそれに当たるという。
「こうした状況が変わることを願っているが、どれほど楽観的でも、慎重にならざるを得ない」
「変化はまだまだ先になる」
マクニール教授の講義に出席している別役睦子さんは、「人種差別について議論するのはタブーとされている。でも21世紀となった今、こうした事柄も話さなければいけない」と話した。
別役さんは、自分の周りにいる人たちは似たような意識を持っている一方、「(人種差別について)考えたこともない人、まったく意識していない人、自分とは関係ないと思っている人もいる」と話した。
別役さん自身は、ジョージ・フロイドさんの事件の前から黒人に対する差別を認識していたと言う。しかし、日本で人種差別の議論があると、それは大抵の場合、中国人や韓国人に対する外国人嫌悪との関連だと話す。
同じ講義を受けている秀島日登美さんもこれに賛同した。
「日本では長い間、中国人と韓国人に対する差別がある」
一般的な日本人がメディアから受け取る人種差別の話題は、とても表面的で、内容も浅く、背景や歴史認識の欠けたものだという。
「日本のメディアはBlack Lives Matterをアメリカの問題としてしか扱っていない」と秀島さんは言う。アメリカで起きている一連の抗議活動によって、日本でも人種差別に対する認識が変わり始めるかもしれないが、そういった楽観的な考えはあまり聞かれない。
「認識は少し変わるかもしれないけれど、その変化が目に見えるようになるにはまだまだかかると思う」
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August 30, 2020 at 01:13PM
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