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アングル:経営危機の航空業界に、コロナワクチン大量空輸の恩恵 - ロイター (Reuters Japan)

[パリ/シカゴ/シドニー 7日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大により打撃を受けている航空会社が、今後始まる大規模なワクチン接種で重要な役割を果たすべく準備を進めている。空輸需要が直ちに高まることが約束されているだけでなく、航空業界の回復と生き残りも約束するからだ。

12月7日、新型コロナウイルスの感染拡大により打撃を受けている航空会社が、今後始まる大規模なワクチン接種で重要な役割を果たすべく準備を進めている。写真は4日、フィラデルフィアの空港に駐機中のアメリカン航空の貨物機(2020年 ロイター/Rachel Wisniewski)

コロナ禍に苦しむ広範な地域へのワクチン配備は、製薬会社や物流会社、政府や国際機関にとって大きな挑戦だ。航空会社も同様で、ワクチン空輸は容易なことではない。

それでも専門家は、こうした遠大なワクチン配布が、計画に関与する航空業界の危機的な損失を軽減する助けになり、貨物便の価格や収入を支えたり、運航ルートを復活させたりする上で恩恵を新たにもたらすと指摘する。

世界保健機関(WHO)の予防接種責任者のケート・オブライエン氏は最近、ワクチン接種の大変さをエベレスト登山に例えて、こうコメントした。

記録的な早さでワクチンを開発するのは実は簡単な部類に入り、「たとえばエベレストでベースキャンプを設営するのに等しい」。一方で「今回のようなワクチンを届けること、社会共同体がワクチンを信頼すること、ワクチンが受け入れられ、人々への適切な回数の接種を確実にすることは、エベレスト山頂を登り切るのに匹敵する苦労だ」。

英国が初めて接種を始めようとしている米ファイザーとドイツのビオンテックのワクチンは、マイナス70度以下で保管する必要がある。モデルナのワクチンの接種も近いとみられるが、マイナス20度で保管しなくてはならない。

ここで大きな役割を担うのが航空便の計画調整の専門担当者や、ドイツのルフトハンザ航空、仏エールフランス、オランダのKLMオランダ航空、香港のキャセイ・パシフィック航空といった、大きな貨物部門を持つ航空会社だ。こうした業者はしばしば、米UPSやフェデックス、ドイツのDHLなどの貨物取扱業者や集荷業者と請負契約をしている。

新型コロナで長距離の旅客需要が急減し打撃を受けているカタール航空やエミレーツ航空、トルコ航空も自国の巨大なハブ機能を活用できる。トルコ航空は中国のシノバックが開発したワクチンのブラジル向け空輸を開始しており、他の航空会社と同様、超低温輸送の収容能力や保管設備を増強している。

<数少ない明るい分野>

キャセイ航空の商用部門責任者、ロナルド・ラム氏は最近、アナリストらに対し、ワクチン空輸について、収益面での恩恵を数字化するのは難しいとした上で、「輸送を通じた直接のプラス効果と、貨物需要全般の増加の両面があるだろう」と指摘した。

貨物は既に明るい光が差している分野だ。航空会社の多くは今年、全体には記録的な赤字に沈んでいるにもかかわらず、貨物事業では未曽有の利益を上げている。

コロナ禍前は、世界の貨物便の半分は総数で約2000機の貨物専用機で運ばれ、残りの輸送はジェット旅客機に依存していた。そのため、コロナ対策で各地でロックダウン(都市封鎖)が実施され、航空便が次々停止になると貨物便料金は高騰。これが航空会社のわずかに残った旅客便ルートの維持を助け、さらなる損失拡大を防いだ。国際航空運送協会(IATA)によると今年の貨物輸送は価格や収益が30%上昇し、売上高全体に占める貨物の割合は36%と、3倍に膨らむ見通しだ。

HSBCのアナリスト、アンドリュー・ロベンバーグ氏はノートで「並外れた状況によって貨物便業界の全体の利ざやは今年、絶好調になる。来年もワクチン配布効果で、そうした水準が続く」と予想した。ワクチン空輸に参加する航空会社は、極めて大きな収益効果を期待できるという。

IATAの試算によると、地球上の全ての人に1回ずつ接種する分量の新型コロナワクチンを空輸するには、大型ジェット機クラスで8000機が必要。空輸が不要な配備分はわずかな可能性がある。その上、新型コロナワクチンの多くは1人2回の接種が必要だ。

業界ニュースレター「ロードスター」は、ワクチン輸送を優先するため他の貨物の予約便が取り消されている貨物輸送業者がいると報じた。

ユナイテッド航空の貨物責任者、クリストファー・ブッシュ氏はロイターに、「今の市場では航空便の輸送能力が大きく不足している。われわれはこれからやって来るワクチンだけでなく、これまでも運んでいた貨物をいかに運び続けるかのバランスを取る必要がある」と話した。

<混乱リスク>

世界の290社の航空会社が参加するIATAはワクチンに関して、旅行制限や搭乗者に対する隔離措置などが緩和されなければ大規模な接種に支障が出ると警告。IATAの貨物責任者グリン・ヒューズ氏は「世界では旅客便がすべて停止したことで貨物便の運航もなくなってしまった場所もある」と訴える。

一方で、国連児童基金(ユニセフ)は今年、世界各地のロックダウンで一時、ポリオ(小児まひ)などの予防接種計画が打撃を受けた。こうした経験から既に教訓は得たとしており、現在は貨物便の値上げに抵抗することに焦点を当てている。ユニセフは貧困状態の92カ国に新型ワクチンを配給する計画だ。

ユニセフの輸送部門責任者パブロ・パナデロ氏によると、ユニセフはワクチンの輸送能力を計画し輸送料金の抑制を続けるため、航空会社側と「初期の協議」をしている。

貨物便の料金はコロナ流行前に比べてまだ2倍の水準という。「ユニセフとして、航空会社側に人道的配慮や、(ワクチンを配給する)ユニセフの取り組みの社会的な重要性さえ意識してもらおうとしている。こうした取り組みは彼らの業界のビジネスの正常化にもつながるのだから」と話す。

関係者は、貨物便業者が現在の価格決定力を全面行使すれば、企業イメージが悪くなって風評リスクに直面する可能性があると語る。カーゴ・ファクツ・コンサルティングのマネジングディレクター、フレデリック・ホースト氏は「利益至上主義と見られるのは見た目が悪い」と指摘した。

ただホースト氏は、新型コロナ流行により世界中でマスクや医療機器の獲得競争が生じた事態が再び起こることはないとみる。当時は各国政府が仕立てた多数のチャーター便がマスクや医療機器を運ぼうとし、そうした便は割高な料金を払わされたという。

ホースト氏によると、ワクチン空輸は顧客に賢い選択肢を提供する物流会社が担う見通しで、「そうした顧客はいつ(値決め)交渉を中断するかのタイミングを理解しているし、うまくまとまらなければ顧客は他の航空会社に向かうだけだ」と話した。

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