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創業約50年の老舗にPR会社出身者が入社して起きたイノベーション【名物あみ焼き弁当】 - メシ通

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ある雑誌の取材で半年ほど前から静岡静岡市に毎月通っている。名古屋から新東名高速を使って約3時間と、そこそこ遠いので、いつも前泊だ。

静岡出張を機にフードライターとして静岡グルメを開拓しようと意気に燃えていたものの、運転疲れでホテルから外出する気力もなかった。とはいえ、食事は摂らねばならない。

そこで、以前カメラマン仲間が静岡の弁当をSNSにアップしていたのを思い出した。どうしても食べたくなって、店の場所をネットで調べて向かった。それが静岡市葵区両替町にある「しずおか弁当(静岡弁当と表記される場合もアリ)」の名物弁当、「あみ焼き弁当」(正式名は豚あみ焼き弁当。650円)との出会いだった。

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弁当箱の蓋を開けると、おかずはご飯の上を覆い尽くしている豚バラ肉のあみ焼きのみ。正直言って物足りなさを感じた。いろんな種類のおかずを少しずつ楽しめるのが弁当の醍醐味ではないのか、と。

しかし、ご飯を豚バラ肉のあみ焼きで巻いて食べると、弁当に対する概念がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

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旨い!

旨すぎるのである!

あまりの旨さにホテルの部屋で悶絶しながらのたうち回ったほど。

何なんだ、この美味しさは。豚のあみ焼きとタレが染みたご飯。この組み合わせは、まさにテッパン。これ以外に何も要らないのである。

味の決め手は、やはりタレ。うなぎの蒲焼きのタレに似た甘辛い味付けが後を引く。またすぐにでも食べたくなるほどだった。

販売元「しずおか弁当」で聞いた誕生秘話とは

以来すっかりハマった私は、静岡へ行くたびにあみ焼き弁当を買ってホテルで食べるようになった。静岡グルメを堪能せず、ホテルの部屋に篭って弁当を食らうのはフードライターとしていかがなものかと自分でも思う。

しかし、あみ焼き弁当が旨すぎるから仕方がない。何度か食べているうちに、あみ焼き弁当のことをもっと知りたくなった。日増しにその気持ちは大きくなり、販売元のしずおか弁当を訪ねた。

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快く取材を受けてくださったのは、しずおか弁当を運営する静京商事有限会社の常務取締役、森谷昇吾さん(写真上)だ。

f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:弊社・しずおか弁当の創業は1971(昭和46)年で、今年の3月で49年になります。もともとこの場所はタクシーの配車場だったんです。その脇で立ち食いそば店も営んでいて、そばの他に牛めしなども出していたようです。それが飲食に携わるルーツですね。

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「しずおか弁当」がある静岡市両替町界隈はレストランや居酒屋、バー、クラブなどが立ち並ぶ静岡県最大の歓楽街。タクシーの配車場よりもその場所を生かした事業をはじめようと、配車場を壊してビジネスホテルと弁当店をオープンさせた。

そのホテルが今も営業している「静岡ユーアイホテル」である。何でも、あみ焼き弁当付きの宿泊プランもあるそうなので、私はここを静岡出張の定宿にしようと思っている(笑)。

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f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:弁当店をオープンさせるにあたって、創業者は名物を作りたいと考え、全国各地を食べ歩きました。そこで北海道・十勝で豚丼に巡り会い、これをモデルにしようと决めたようです。豚丼は主にロースを使用しますが、時間が経つと固くなってしまうので、ジューシーなバラ肉を使うことにして、タレは静岡の人が好むうなぎのタレのような甘辛い味付けにしようと。

しかし、北海道の豚丼のように出来立てをその場で食べるなら話は別だが、弁当は持ち帰りが前提。脂の多いバラ肉は冷めると脂が固まってしまうのだ。

あみ焼きにしたのは、余分な脂を落とすためでもあった。

f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:それでもやはり出来立てに勝るものはないと思うんです。混雑する時間帯はある程度決まっていますから、それに合わせて肉を焼いて、できるだけ作りたてを提供するようにしています。また、出来上がったあみ焼き弁当は、保温庫に入れていますので温かい状態でお召し上がりいただけます。

【驚愕】すべて「手作業」だった

それでは「あみ焼き弁当」はどうやってできあがるのだろうか。実際に作っているところを厨房で見学させていただいた。

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▲こちらはあみ焼き一筋24年のベテラン社員、石川晴夫さん

何しろ、静岡を代表する弁当である。最新の調理器に搭載されたAIがベストな焼き加減を判定……というイメージを勝手に抱いていたが見事に裏切られた(笑)。

肉を焼くのも、ご飯を盛るのも、タレをかけるのも、すべて手作業だったのである!

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自家製のタレにくぐらせた豚バラ肉をあみの上にのせて焼いていく。頃合いを見計らって肉をひっくり返して再び焼く。

焼き上がった肉の表面にはほんのりと焦げ目が付いている。思わず、お腹がグーッと鳴ってしまった(笑)。厨房に立ち込める匂いだけでご飯がイケるほど。もう、たまらん!

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f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:バラ肉ですから、赤身が多い部分もあれば脂が多い部分もあります。となると、焼く時間やひっくり返すタイミングが一枚一枚違います。また、あみ焼きとうたっているからには、ほどよく焦げていなければなりません。それを見極めながらの作業となるので、どうしても職人さんの技術が求められるんです。

手作業であることと作業スペースの関係で、一度に焼ける枚数も限られてくる。1時間で約6キロ、45〜50食分が限界なんだそう。

コラボNG、まさに「秘伝のタレ」

焼き上がった肉を弁当箱に盛られたご飯の上に敷き詰めて、さらにその上からタレをかける。

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前にも触れたが、タレの味付けの参考にしたのは、静岡人が好む甘辛いうなぎのタレ。そのまま使うと甘みが強くて肉と合わないので、塩分をやや強くしたという。あみ焼きした豚バラ肉と合わせたときに人々の心を掴んで離さない味わいになるのだ。

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石川さん:「家庭用のタレを作ってほしい」というお話はしょっちゅういただきます。ただ、家庭でも気軽に食べられたらあみ焼き弁当が売れなくなりますので(笑)、丁重にお断りしています。

その他に、デパートの催事やコンビニ弁当、スナック菓子の監修などのオファーもあったそうだが、首をタテに振った案件は一つもないという。

石川さん:ご飯の上に肉を盛り付けた後、タレをかけるのですが、弁当箱の隅に流れていくんです。弁当箱の底にタレが溜まって、肉の下にあるご飯はほとんどタレがかかっていない状態になるんです。これもまた、あみ焼き弁当の美味しさではないかと思います。

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飲んだシメにも「あみ焼き弁当」!

あみ焼き弁当の中には職人の知恵と技術もぎっしりと詰まっていた。好評の秘密は味であることは言うまでもない。

しかし、あみ焼き弁当が静岡の名物となったのは、もう一つのストーリーがあった。それはしずおか弁当の閉店時間である。一般的に弁当店は夜遅くても23時頃まで。ところが、しずおか弁当は深夜3時まで。この異常なまでに遅い閉店時間にヒットの理由があったのだ。

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f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:店舗が繁華街の中にあるので、クラブやスナックなどで働く方にも食べてもらおうと思って、深夜3時まで店を開けています。その目論見通り、夜遅くに仕事を終えた方が買いに来られるようになりました。

さらには、飲んだ帰りにあみ焼き弁当を買って自宅で食べるという、〆ラーメンならぬ「〆弁当」という習慣まで生まれたのだとか。納得。

f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:あみ焼き弁当をお土産に買って帰る方もいます。遅くまで飲み歩いても家族に許してもらえるという話もよく聞きます(笑)。子供の頃にあみ焼き弁当を食べたことがある、という方の大半はお父さんが飲みに行った帰りに買ってきたものだと思います。

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現在、あみ焼き弁当は、定番の「豚あみ焼き弁当」を筆頭に牛バラ肉を使った「牛あみ焼き弁当」(700円)、「牛ハラミあみ焼き弁当」(800円)がある。

また、プレミアムシリーズとして、静岡県産のブランド豚、朝霧高原ポークを使った「朝霧高原ポークあみ焼き弁当」(750円)と国産の牛カルビを使用した「牛カルビあみ焼き弁当」(850円)も用意している。

肉好きの心をくすぐるキャンペーン展開

もともとしずおか弁当の商品ラインナップは、豚あみ焼き弁当と牛あみ焼き弁当と幕の内弁当の3種類のみだったが、お弁当の種類を増やしたのは、何を隠そう、森谷さんのアイデアだった。

森谷さんの父親は、しずおか弁当を創業当時から支えた元ナンバー2。森谷さん自身は広告代理店やPR会社で働いていたが、11年前に体調を崩した父親を助けるために入社し、商品企画やPRに携わってきた。

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f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:よそのお宅と違って、父はあみ焼き弁当をお土産に買って来なかったので(笑)、大人になるまで食べたことがありませんでした。食べてみると、たしかに美味しい。でも、毎日食べられるかと。実際、私が入社した11年前は、豚あみ焼き弁当の売り上げが、緩やかではありましたが落ちていたんですね。それで新しいメニューを開発してお客様の選択肢を増やそうと考えたんです。売り上げを伸ばすにはとにかく食べてもらうことに尽きますから、キャンペーンを年に6回はやっています。

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PR会社に勤めていただけに、あみ焼き弁当のキャンペーンは実に攻めたものが多い。

たとえば、2019年6月には豚と牛タンのあみ焼きと牛煮込みの3種類の肉をのせた「豚あみ・牛タン・牛煮込み3種の食べ比べあみ焼き弁当」(700円)を、その翌月には、豚あみ焼き弁当に2種類のトロトロチーズをのせた「チーズタッカルビあみ焼き弁当」(650円)を販売。反響はとても大きく、店の前には行列ができたという。

キャンペーンのポイントは、限定メニューだからといって大幅に値段をハネ上げたりしていない点。かなりお得感があり、つい買ってみたくなるのだ。

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f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:期間限定でネギ塩豚あみ焼きやカレー豚あみ焼きも作ったことがあります。他にも豚あみ焼き弁当の肉を同じ値段で1.5倍に増量したり。弁当箱は通常の量に合わせて作っているので、蓋が閉まらないんですよ(笑)。ご飯が相当圧縮されましたが何とか詰めました。

また、キャンペーンではないが、商品名や価格が載るシールに手書きのメッセージを書いたりしたことも。

f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:少年野球やサッカーなどの大会で大口の注文を受けたとき、子供よりも送迎や弁当や飲み物の手配をする親御さんたちが大変だなぁって思ったんです。そこでシールに(親御さんたちの声を代弁する気持ちを込めて)「これを食べたら勝てるよ!」とか「試合、頑張ってね!」という応援メッセージを入れたんです。これも喜ばれましたね。

「インスタ映えする弁当」がネットで話題に

SNSでのPR戦略もめちゃくちゃユニークだ。

気づけば世間ではInstagramが大ブームとなっていたが、ご存知の通りあみ焼き弁当は豚だろうが、牛だろうが茶色一色(笑)。

カラフルな「映える」食べ物がメディアで紹介されるたびに森谷さんは複雑な気持ちになった。そもそも「インスタ映え」とは何だろう? と考えた。

f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:映えを意識したメニュー開発をするとコストがかかってしまうんです。ですから、しずおか弁当で出来るインスタ映えはこれだ!! と半ば投げやりな気持ちでシールに「インスタ映えを狙ったお弁当」という商品名をつけて売り出したんです。

withnews.jp

f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:SNSで拡散されてお客様がワーッと集まりました。でも、ウチはあみ焼弁当や幕の内弁当があくまでもメインですから、あえて告知をせず、その日に店頭にあったらラッキーみたいな感じで1カ月間続けました。

これまでにも、遊び心満点のシールを連発していた。

「余ったおかずで組み合わせたら豪華になったお弁当」や「あっ! なんか中華食べたいなぁと思った時に食べるお弁当」「とりあえず何を買うか迷ったらこれを買えお弁当」などなど。

f:id:Meshi2_IB:20200203152225p:plain森谷さん:ウケ狙いというのもありますが、毎日来てくださるお客様に楽しんでもらうためですね。

別売りコールスローとの相性も◎

あみ焼き弁当に話を戻そう。私はあみ焼き弁当をより美味しく食べるため、必ず「コールスロー」(30円)を購入する。

もちろん、箸休めに食べても旨いのだが、私オススメの食べ方を伝授しよう。

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添付されたドレッシングを全体にまんべんなくかけて、少し時間をおく。その間、肉とご飯を楽しむ。

キャベツに味が馴染んでいることを確認したら、肉を一枚取り出して、コールスローサラダを巻いて食すのだ。

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甘辛いタレの味と、肉そのものの味、キャベツのシャキシャキ感、ドレッシングの酸味が口の中で一つになる。

これがもう……これがもう……ほんっ……とーーーに旨いのだ!

ターボがかかったようにご飯がすすみ、あっと言う間に平らげてしまう。是非試していただきたい。

TKGアレンジでさらに旨い

森谷さんによると、これ以外にも簡単で美味しく食べられるアレンジメニューがあるらしい。

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用意するものは、卵と丼のみ。まずは、あみ焼き弁当から肉を取り出して、ご飯だけを丼に移す。

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そこに卵を投入して、TKGを作る。卵は2個使って、ゆるめに仕上げた方が美味しいとのこと。

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TKGの上に肉をのせて完成。

調理時間、わずか3分。簡単すぎる!

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こんなの、食べる前から旨いとわかるじゃないか!

TKGを肉で巻いて口の中へ……。おおっ! もう、全身が震えがくるくらい旨い! っていうか、あまりの旨さにこの中で泳ぎたくなるほど(笑)。

甘辛いタレは肉だけではなく、卵とも相性抜群なのだ。試食のつもりが完食してしまった。

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あみ焼き弁当の歴史や味へのこだわり、人気の秘密、そしてアレンジレシピまで、それこそお腹がいっぱいになるまで話をうかがった。それでもまた食べたくなってしまう中毒性があるのが、あみ焼き弁当の魅力なのだ。

早く静岡に行きたいなぁ。

お店情報

しずおか弁当

住所:静岡静岡市葵区両替町2-7-13 静岡ユーアイホテル1F
電話番号:054-252-6027
営業時間:10:00〜翌3:00
定休日:なし(大晦日、お正月を除く)

www.hotpepper.jp

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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