「どんどん」のたなかうどんとは
先日、山口県の萩市を旅していた。
そのときお世話になった運転手さんが、実に陽気で、話好きで。
「え? 食べ物の取材でいらしたんですか。それはそれは。魚がうまいからねえ……山口は」と誇らしげに語られる。アジにノドグロ、フグにアマダイ……と立て続けに県自慢の魚を並べ、おすすめの食べ方やお店を教えてくれた。
そして最後に、
「でもねえ、魚もいいけど……『どんどん』のうどんも食べていってくださいよ。地元のひとはみんな好きよ、あれは」
と、ぽそりと言われたのだった。
気になる。
そりゃ気になるじゃないですか!
すぐにチェック。ほう、チェーン店なのか。トップの写真はホテルから一番近かった萩市の本店で、早速駆けつけた次第。
一番のおすすめはね、たなかうどん。「どんどん」行ったら、たなかうどん。みんなあれ食べよる。
運転手さんの言葉を思い出す。
た、たなかうどん!?
なんだそりゃ。でもこういうときは従うのが吉だ。お店に入るなり私は「た、たなかうどんください」と自信なさげにお願いした。
甘めの汁に、柔らかくも芯のある麺
数分も経たないうちに出てきたのが、こちら。
▲たなかうどん 530円
「昔、うちで勤めてた人がワカメと肉をトッピングするのが大好きでね。その組み合わせがおいしいと評判になって。その人、田中さんっていうんです」と店員さん。
そんな直球な!
でもともかく、いただきます!
▲ちょっとワカメをよけて、うどんを見せてみました
まず汁をすする。
うまい……。
甘めの、なんともホッとするおつゆだ。だしのうま味もしっかり。煮つけられた牛肉と歯ざわりのいいワカメが、つゆにコクと香りを加える。山口はワカメも特産なんだよな。
そして主役のうどんは、口にしたとき「唇でも切れるかも?」と思ったほどの柔らかさだったが、噛めばしっかり中心に弾力が残っている。頼りなさすぎず、固すぎず。青ネギが入れ放題なのもうれしいぞ。甘めのつゆに程よくキレを与えてくれる。
あっという間に、器を空にしてしまった。
東京にも支店があった
山口では他にもいろいろとおいしいものをいただいた。
しかし旅を終えて自宅に帰り数日が経って、フト「また……食べたいな」と心に浮かんでならなかったのが、「どんどん」のうどんだったんである。あの汁と麺が、恋しい。
でもさすがにうどん一杯のために飛行機乗って山口には行けない!! ぐううう……と心で地団太踏んでいたが、ホームページをよく見たら、なんと東京都にも1店舗だけ支店が!
地下鉄半蔵門線の水天宮前駅が最寄り、東京シティエアターミナルの別館1階に「すなだ どんどん」箱崎T-CAT店(以下、どんどん東京店または東京店と明記)はあった。
店内の席数は51席ほど、なかなかの広さ。人形町~水天宮にかけてはビジネス街でもあり、茅場町も近い。サラリーマンが入れ替わりでやってくる。そうかと思えば親子連れの姿も。聞けばオープンして15年が経つという。
山口の「どんどん」を『メシ通』でも紹介したいと思い、取材をお願いした。
▲快く取材を引き受けてくださった、「どんどん」を経営する株式会社スナダフーヅの専務・大島透さん。たまたま仕事で山口から東京に出張されていました
──先日、山口県を訪ねて「どんどん」のうどんをいただいて、ハマりました。食べてから数日経って、どうにも思い出されちゃうんですよ。
大島さん:それ、私もそうなんです。私はもともと山口の人間ではないんですが、あることで「どんどん」のうどんを食べて、数日経って「また食べたいなあ……」と思い出されて。それがいわば、入社のきっかけになりました。
──おお、そうでしたか!
創始者は「砂糖使いの天才」だった
▲「どんどん」東京店の店内。奥にもう1間あり
──早速「どんどん」の味について教えてください。実は地元の方から「けっこう甘めのおつゆだから、関東の人は苦手かも?」なんて言われたんです。たしかに甘めだけれど、くどくない。むしろその甘さが、クセになる味わいの決め手になっていますね。
大島さん:創業者の砂田シゲヨがつくり上げた味なんですが、彼女は料理において「砂糖使いの天才」といわれていたそうです。山口のうどんは基本的に甘めなんですよ。周辺だと隣県の島根も甘めで。砂田シゲヨはもともと島根の出身なので、その影響もあるのかもしれません。つゆの甘さは砂糖とみりんで出しています。
▲かけうどん(中サイズ 310円)。おつゆから漂う、なんともいい香り
──だしは何を使われているんですか。
大島さん:北海道の利尻昆布、熊本・天草のうるめ節、静岡・焼津のサバ節などをミックスして使っています。ただ、東京と山口では水そのものが違う関係で、東京だと昆布だしが出にくいこともあり、本店より昆布多めにするなどして工夫しているんですよ。だしはその日使う分を毎日お店でひくようにしています。毎日の仕事のはじまりは昆布を水につけるところから。
──そういった素材を使ってなおかつ東京の立地で、随分と安く値段を設定していますね。一番安いうどんで210円(東京店の場合)じゃないですか。
大島さん:原価率は高いですよ、うちは(笑)。でも、手頃な値段でおいしくて、体にいいものを食べてもらいたいというのが社としての考えです。添加物などは一切使っていません。
「とろモチッ」な食感の秘密
──うどんの食感にも惹かれました。柔らかいかと思いきや、いい意味で芯に弾力を残すんですね。
大島さん:表面は柔らかいけど、噛むとモチッと弾力がある。「とろモチッ」と私たちは表現しています。チェーンのお店だと、あらかじめ麺をゆでておいて冷水でシメて、それを温め直して出すことで早く提供できるようにするシステムもあると思いますが、私たちはそれをしないんです。ゆであげをお出しすることで「とろモチッ」とした食感になるんです。
──それだとゆでる時間、けっこうかかりませんか。私が食べたときは、山口でも東京でもすぐに出てきたんですよ。
大島さん:時間帯ごとの来店客数をある程度予測しておいて、3つの釜で数分ごとの時間差でゆでておくんです。注文が入ってもゆでたてを常時提供できるようにスタンバイしておく。ちなみに山口だと柔らかめが好まれるんですが、東京だと硬めを好まれる方が多いので、東京店では通常より硬めをお出ししています。
──ああ、やっぱりそうですか! さっきいただいたとき、本店より歯ごたえがあるなと思ったんです。
大島さん:麺の硬さは言っていただければ調整はできますよ。ちなみにうどんもすべて各店の店内で打っています。原料は塩、水、小麦粉のみで。
▲東京店のトッピングより、ちくわ磯辺揚(130円)をチョイス。身の詰まった弾力あるちくわで食べごたえあり、おすすめ! 山口県は練り物の名産地でもあり、ちくわも山口産のものが使用されている
▲東京店のメニュー。ちなみに東京店は具がセルフ、他店はオーダー制のお店がメイン。値段も店舗によって違うので、詳しくはHPを参照してください
──しかし店内、山口県のこと、ほとんどうたってないんですね。東京でおなじみになった人、「どんどん」が山口県のお店だってこと知らないまま帰っちゃいそうな。
大島さん:うちの会社そういうアピール苦手なんですよ(笑)。それに、山口県とわかったところでうどんに付加価値つきます!? 香川とかだったらともかくも。ただもう、おいしかったと思って帰っていただければそれでいいかなあ、と。
つい食べたくなる「懐かしい味」
──うーん、これまた直球な(笑)。でも、そのさっぱりした感じがいいですね。本日はありがとうございました!
▲トッピングのオーダー率1位はやはり肉だそう(肉うどん・中 430円)
大島さんは入社前、お正月休みに山口県の「どんどん」を訪ね、帰省客がひっきりなしにやって来ては「懐かしいなあ」「やっぱりこれだね」的に食べている光景を目にして、就職を決めたのだそう。
ふるさとを離れて過ごす人々に取材すると、「帰郷したら必ず食べたい味」って、確かにあるものだ。「どんどん」のうどんは、県人の心のよりどころのひとつなのかもしれない。
山口県の萩市は、実にいいところだった。昔ながらの街並みが残るエリアはもちろん、何気ない住宅地にも時代の香りがそこはかとなく漂っていて。歩いていて楽しい。写真をたくさん、たくさん撮った。
もしいつか山口を旅することがあったら、歴史的な観光地もいいけれど、ぜひとも「どんどん」のうどんも味わってみてほしい。サブオーダーは、地元ではおなじみの「しそわかめ」をまぶしたおにぎりを、ぜひに。
ああ、また旅したくなっちゃったなあ。
お店情報
すなだ どんどん 箱崎T-CAT店(東京店)
住所:東京都中央区日本橋箱崎町22-1
電話番号:03-5847-4306
営業時間:月~金曜日7:30~21:30、土・日・祝日9:00~21:00
定休日:なし
企画・文・撮影:白央篤司
「暮らしと食」、郷土料理がメインテーマのフードライター。雑誌『栄養と料理』『ホットペッパー』農水省広報誌などで執筆。著書に「にっぽんのおにぎり」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)「自炊力 料理以前の生活改善スキル」(光文社新書)など。
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February 18, 2020 at 04:30AM
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忘れ得ぬご当地うどん「どんどん」にもう一度会いたくて【東京にもあった】 - メシ通
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