ヘリエ・チュン、BBCニュース(ワシントン)
若者は政治の未来だ。……少なくとも、そうあるべきだ。
アメリカでは39歳以下の人たち、いわゆるミレニアルやジェネレーションZの世代が、有権者の3割以上を占めるようになった。上の世代よりも人種・民族的に多様で、リベラルなこの若い有権者は、今年の選挙で大きな影響力を持つかもしれないと専門家は言う。
ただし、集団としての若い有権者の投票率は常に、上の世代に比べて低い。
野党・民主党は現在、11月の本選でドナルド・トランプ大統領と争う党の候補を予備選で選んでいる。2人残った有力候補の片方、バーニー・サンダース上院議員(ヴァーモント州選出)は、若者やこれまで投票したことのない人に働きかけ、動員できるのは自分だけだと主張する。
78歳のサンダース氏は若者の間でとりわけ人気が高い。一部の世論調査によると、予備選で投票する18~38歳の民主党支持者の約5割は、サンダース議員を誰より支持している。
スーパー・チューズデーでは、参加した14州全てでサンダース議員が若者の間では1位だったようだ。しかし、若者票が全体的に特に増えたわけではなく、サンダース氏は14州のうち10州でジョー・バイデン前副大統領(77)に敗れた。
サンダース議員は、若い有権者の動員は「簡単ではなかった」と認めている。「期待したほど若い人が足を運んでくれたか? 答えはノーだ」。
米ハーヴァード大学ケネディ・スクールの世論調査部長、ジョン・デラ・ヴォルピ氏は、2000年以来、アメリカの若い有権者を調査してきた。出口調査をもとにすると、「ほとんどの州で若者票は一定か減っていると言える、信用できる証拠が揃っている。結局のところ我々が期待するほど、若者は政治に前向きではない」のだそうだ。
だとするならなぜ、若者はもっと民主党予備選で投票していないのか。そしてこれは11月の大統領選本選にどう影響するのか。
正直なところ、真相はかなり入り組んでいる。そして、複数の要素が関係している。
1.たとえ投票したくても、簡単に投票できるとは限らない
世論調査によると、若い世代は政治に関心はある。ハーヴァード大による昨年の調査では、18~29歳の43%が、支持する政党の予備選に投票するつもりだと答えていた。
しかし、実際の投票率はそれよりはるかに低かったようだ。米タフツ大学による出口調査分析では、スーパー・チューズデーでの若者の投票率は5%から19%に留まった。
そして、若者票の実数が増えた州でも、上の世代の投票数の増分が若者をはるかに上回った。
理由をひとつだけ? 投票するための手続きは、場合によっては複雑だ。特に初めて投票する人にとっては。
「有権者を魔法のように実際に投票させられる候補などいない」と、タフツ大学のアビー・キエサ氏は言う。キエサ氏は、若者の政治参加に取り組む研究組織「CIRCLE」で、影響力の調査を担当している。
「若い人は18歳になっていきなり、『自分の投票所はここか』と気づいたりしない。(中略)インターネットがあるから何でもすぐに分かると決めてかかる人が多すぎる。そんなわけはないので」
若い人の多くは、有権者登録の締め切りがうっかり過ぎてしまったのだと文句を言う。そして、自宅を離れて別の州で暮らす学生にとって、不在者投票は輪をかけて複雑だ。
イタリア留学中のベンジャミン・クラーディーさん(21)は、投票用紙を郵送するには、「とても特殊な封筒をプリントアウトしなくてはならない」と知らされた。何が問題かって? 規格の合ったプリンターが身近になくて、ヴェネツィアの専門業者を探し当てなくてはならなかった。
ひとつひとつはささいなことでも、積みあがれば大きな障害になる。テキサス州出身でシカゴ在住の学生、グレイス・ウェルズさん(22)はこう言う。
「自宅にプリンターなんて、もうほとんど誰も持ってない。ただでさえ毎日忙しいのに、誰に投票するか決めて、自分がいま住んでいない郡の色々な投票手続きを忘れないようにして投票までたどり着くのは、けっこう大変です」
そして、投票の仕組みそのものが不安定だったりもする。リナ・テイトさん(20)は2月半ばに不在者投票に登録した。しかし、投票用紙をやっと受け取ったのは3月6日。スーパー・チューズデーの3日後だった。
テイトさんは投票用紙を郵送したものの、「とても不愉快だった」と話す。「ただでさえ年上の世代は、私たちが投票しないと思っているのに(中略)でもこれは私にとって大事なプロセスなんです」
クラーディーさんもウェルズさんも、同じように最終的には投票できた。しかし今の仕組みでは、そこまで積極的に投票したいわけではない若者、あるいは細かいことが苦手な若者は、投票しにくいのだ。
一方で、テキサス州やカリフォルニア州では、多くの有権者がもっと物理的に、なかなか投票できなかった。投票所には数時間待ちの長蛇の列ができてしまったのだ。
たとえばクリストフ・スピーラーさんは、テキサス州の予備選の投票所が置かれたヒューストンのテキサス州立大での行列の写真をツイートした。投票締め切りから30分後の様子だという。行列は建物の中も続き、建物の玄関から実際の投票ブースにたどり着くまで自分は2時間もかかったと書いている。
テキサス州の市民団体は、学生が多い地区では投票できるまでの待ち時間が特に長かったと指摘している。19歳の男子学生は英紙ガーディアンに、1時間半並んだけれども授業に出なくてはならなかったので諦めたと話した。投票締め切りの午後7時にまた列に加わり、2時間は待ったものの、結局はもう投票できないと言われたという。
2. かなり多くの若者が幻滅している
デラ・ヴォルピ氏によると、恣意的な選挙区の区割りから不在者投票の煩雑な手続きに至るまで、若者の投票を妨げる構造的な障壁は確かに、実際にある。
しかしそれに加えて、「態度・姿勢による障壁もあって、それも何とかしなくてはならない」のだという。
「アメリカの若者は、自分たちが参加することで具体的に何か影響を与えられると思えば、投票する」とデラ・ヴォルピ氏は言う。だからこそ、2018年中間選挙では記録的な数の若者が投票したのだと。
しかし一般的には、若者は政治に無関心になりやすい。ハーヴァード大調査によると、「団塊の世代の公職者は自分のような人間のことを気にかけている」と思うかという質問に、「そう思う」と答えた18~29歳はわずか16%だった。
民主党の間では、党の主流派が自分たちの言うことを聞いていないと、多くの若者が感じている。
ミッチェル・アレンさん(18)はサンダース議員に投票したが、「自分と同世代の子の多くは、今の仕組みでは自分たちは最初から不利だと思っている。主流派が勝つと決まっているのだから、投票しても意味がないと感じている」と話す。
ウェルズさんもサンダース議員に投票した。そして、「お前たちの政治的目標は、お前たちが求める運動は、取るに足らないものだと言われ続ける仕組みの中で、人にやる気を出させるのは難しい」と話す。
クラーディーさんはサウスベンド前市長のピート・ブタジェッジ氏を支持したが、そのブタジェッジ氏がスーパー・チューズデーの直前になってバイデン氏支持を表明したのは「残念だ」と言う。「いろいろ問題があるんだと、民主党は認めようとしないみたいだった」。
3. 多くの高校生は政治についてあまり情報を得ていない
何人かの若い有権者は、大学に入ってからの方が政治に関わりやすかったと話す。
ミカエラ・ペルネッティさん(22)は、カリフォルニア州サクラメントの高校ではあまり誰も「政治の話をしたがらなかった」と振り返る。
「家族が政治の話をしないから、子供も政治の話をしないし、友達とけんかしたくなりから政治の話をわざわざしなくなる」
大学に行ってからの方が「もっと政治的な雰囲気」だったという。
イーサン・ソマーズさん(20)は、コロラド州レイクウッドの高校に通っていたころ、友人に有権者登録を勧めようとしたが、「なんで?」という返事がほとんどだったという。
「自分のコミュニティカレッジでは、貧困世帯の出身者が大勢いて、本当に大変な思いをしていた」とソマーズ氏は言う。
「住んでいた小さい町では、政治というのはワシントンでやっていることで、ワシントンの政治家がどう投票しても自分の生活には関係ないと、そういう感じだった。政治は自分たちを裏切ったので、政治に関わるのは面倒すぎるからごめんだという気持ちが強かった」
ほとんどの選挙陣営は大学キャンパスを遊説などの場所に選ぶ。つまり、「大学に行かない若者との接点がなかなか作れない」のだと、タフツ大のキエサ氏は指摘する。
政治を身近に感じる機会が均等ではないというこの「体制的格差がこれほど早くから始まっている」のは、大問題だとキエサ氏は言う。
4.出馬中の政治家にもよる
若者が投票しなかったのは若者のせいだと、あるいは若者を盛り上げなかったサンダース議員のせいだと、そういう声も多く聞かれる。しかし、サンダース氏以外の陣営も若者の低い投票率に関係していると、複数の専門家は言う。
「全ての若者が投票所に行かなかったからと言って、それはサンダース氏の責任ではない」とデラ・ヴォルピ氏は言う。「若者の投票率が低かったもうひとつの理由は、他の陣営が若者に注力しなかった、戦略的に重視しなかったからだ」。
サンダース氏以外の候補たちには大きな見落としがあったと、デラ・ヴォルピ氏は言う。若い民主党支持者の半数は、サンダース氏を支持するとは言っていない。つまり、他の候補が残りの若者を取り込もうとしなかったのは、「巨大な機会損失」だったというのだ。
加えて、かなり最近になるまで予備選にあまりに大勢の候補がいたことも、若い有権者がその気になれない一因だったかもしれない。
20歳のソマーズ氏は、「あまりにごちゃごちゃしていて、誰が一番いい候補になるか考えるのをやめて、本選で投票すればいいやと決めた若者もいると思う」と話す。
5.最後に……11月はどうなるか分からない
予備選は複雑で、若者の投票行動をどう比較するのが最適なのかは専門家の間でも意見が分かれている。
ハーヴァード大の世論調査の専門家たちは2020年の投票行動を、最も最近の2016年民主党予備選と比較した。サンダース氏は前回も出馬している。他方、タフツ大学CIRCLEの専門家たちは、2020年の若者の投票率は2012年の予備選に比べれば増えたと指摘している(与野党両方ではなくひとつの党だけが予備選を実施した前回が2012年。当時は野党だった共和党のみが予備選を行い、民主党はバラク・オバマ大統領が再選を目指していた)。
その一方でどの専門家も、若者がすでに政治の動きにかなりの影響を与えたという点では同意している。また11月の本選では事態がかなり変わるかもしれないという認識でも一致している。
2018年秋の中間選挙では、2014年の20%に比べて若者の投票率が36%に急増した。そして、過去最多の女性が投票したり、初の少数民族議員や最年少の女性議員が当選したりと、様々な記録を作った。
中間選挙の結果は「ある意味で、トランプ政権の政策への国民投票だった」とデラ・ヴォルピ氏は言う。それに対して、「2020年予備選ではまだトランプは大きい要因になっていない。これまでは煎じ詰めれば、バーニー・サンダースに対する住民投票だった」のだと。
キエサ氏はさらに2018年の中間選挙について、フロリダ州パークランドの高校乱射事件などいくつかの出来事を機に立ち上がった若者が、銃規制や有権者登録などで活動したことが、選挙の結果に影響したと話す。
若者は「本当に変化をもたらす力を持っている」とキエサ氏は言う。「予備選の結果をもとに、本選で若者がどれだけ投票するか、性急に結論しない方がいい」。
(英語記事 Super Tuesday: Why didn't more young people vote?)
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March 11, 2020 at 06:48AM
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