
新型コロナウイルスを巡り、科学分野と金融市場からは悲喜こもごものニュースが絶えず流れてくる。そうした中、最も恐ろしいシナリオは簡単に見過ごされてしまう。つまり、特効薬は出てこないというシナリオだ。この状況は十分に想定可能であり、新型コロナ感染症(COVID19)に有効なワクチンや画期的な治療法が見つからず、検査と接触者追跡の組み合わせも感染封じ込めには力不足で、集団免疫を獲得するとしても、それは世界で数百万人の死者が出てからということになる。
こうしたシナリオは指摘するだけで気が滅入(めい)る。しかし、結果が恐ろしいからと言って、それがなくなるわけではない。
筆者は2月末以降、約20人にインタビューを行ってきた。その中にはマーク・リプシッチ氏やアンジェラ・ラスムッセン氏、カール・バーグストローム氏といった疫学者やウイルス学者、ポール・ローマー氏、ステファニー・スタンチェバ氏、ラリー・サマーズ氏など経済学者、一流病院のリーダーや政府機関の専門家も含まれる。彼ら専門家は多くの質問に答えてくれたが、一つだけ答えの得られなかった問いがある。ワクチンや画期的治療法が手に入らないという悪夢のシナリオに備えた計画を、一体誰が立てているのかだ。
それは理想的には、リソースを持ち、問題を俯瞰(ふかん)できる連邦政府の行政府の仕事になろう。しかし、再選を目指すトランプ大統領が(非現実的な)楽観に固執するのは無理もない。実際、ホワイトハウスは新型コロナ対策タスクフォースの解散について協議していた。
米疾病対策センター(CDC)やその他の公衆衛生当局は次善の選択肢となるかもしれない。しかし、彼らは市民に警告し、ウイルスが歯止めなく拡散するのを防ぐのに忙しい(それは正しいことだ)。最悪のシナリオを想定するのは科学者の仕事ではない。彼らは治療法やワクチンを探すことに全精力を傾けているのだ(それは当然のことでもある)。各州知事には、それぞれの州の計画を立てる権限しかない。そして連邦準備制度理事会(FRB)の責務は雇用と市場を救うことであり、今ある形の経済の終わりをモデル化することではない。
筆者は何も破滅シナリオを楽しんでいるわけではない。しかし、現実主義には、合理的な確率で起こり得る全ての事象を考慮することが間違いなく必要である。もし最悪のシナリオに備えている機関や部門が実際にないとすれば、それはガバナンス上の大きな失敗だ。
約90種のワクチンが研究され、一部で臨床試験が行われているのは励みになる。数が多ければ一つぐらいは成功するとわれわれは考えがちだ。しかし、非常に低い確率のものを幾ら多く集めたところで、高い確率で一つが成功するとは限らない。
モデルナなどが開発しているメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンで認可を受けて世に出たものはまだ何もない。英オックスフォード大学のグループが研究しているウイルスベクターワクチンも同様だ。従来型のワクチンは患者に届くまで何年もかかる。
われわれはワクチンがあと1年半は手に入らないというのを非常に多く聞かされてきたため、1年半後には手に入るようになるという全く別のメッセージに混同し始めたようだ。
状況を一変させる治療法も保証されるには程遠い。新型コロナ感染症の入院患者にレムデシビルを投与する治験では致死率が11.6%から8%に下がったという。統計的には意味があり、命を救う可能性もある。しかし、仮にこの傾向が幅広く再現されたとしても、われわれが感染リスクをどう受け入れるかを根本的に変えることにはならない。
検査と接触追跡は経済を再開させるためのメカニズムとして歓迎されているが、大規模な検査は今のところ不可能であり、すぐに実現できる見込みも低いという現実がある。
また、あまり議論されていないが、新型コロナのように大規模な市中感染を起こしたウイルスの抑制に検査と接触追跡の組み合わせが実際に使えるのかという疑問もある。この組み合わせは感染症例数が限られ、まだウイルスが広範に拡散していない場合には通用してきた。実際に韓国では非常に効果があったとみられる。2014年のエボラ出血熱の流行時にも効果が証明されている。しかし、新型コロナについて筆者と話した疫学者の口からは、すでに広範囲で流行している感染をこの手法で抑制したという真に説得力ある話は出なかった。
通常、他の全てのシナリオが議論された時に話題は集団免疫に移る。しかし、前出のバーグストローム氏が数週間前から主張しているように、集団感染は現実的には人口の大部分がウイルスに感染していることを意味する。実際の致死率にもよるが、それは世界中で数百万人もの死者が出る可能性があることを意味する。
この恐ろしいシナリオにどう対応すべきか、今まさに考え始めるべき時が訪れている。闘いに敗れたら世界はどうなるかと聞くのは敗北主義ではない。現実主義だ。
(ノア・フェルドマン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米ハーバード大学の法学教授です。デービッド・スーター元米連邦最高裁判事の下で働いた経歴もあります。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題: We Need a Plan for the Worst Coronavirus Scenario: Noah Feldman(抜粋)
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May 08, 2020 at 12:08PM
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