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焦点:中国の巨人ゲノム企業、米の懸念よそにコロナで存在感 - ロイター (Reuters Japan)

[シドニー 5日 ロイター] - 各国が新型コロナウイルスの検査に奔走するなかで、ある中国企業の名前が世界中で大きく取り上げられている。

8月5日、各国が新型コロナウイルスの検査に奔走するなかで、ある中国企業の名前が世界中で大きく取り上げられている。写真は昆明にあるBGIのラボで2018年12月撮影(2020年 ロイター)

その名はBGI(華大基因)グループ。2015年に行われたある調査において、急速に成長するゲノム解析分野における「巨人」と評された企業だ。

今回のパンデミック(世界的流行)で生じた機会を活かして、BGIはグローバル規模でその存在感を高めている。同社によれば、過去6ヶ月間で3500万セットのCOVID-19迅速検査キットを180カ国に販売し、18カ国に58カ所の検査施設を建設したという。

検査機器の一部はBGIの社会貢献部門により寄贈された。中国の「ウイルス外交」の延長として各国駐在の中国大使館が推進した動きだ。

BGIは、検査キットだけでなく、遺伝子配列を解析するシーケンサー技術の販路も広げており、米国の安全保障当局者は、この技術が国家安全保障上の脅威になりかねないと話している。シーケンサーは遺伝物質の分析に用いられ、重大な個人情報を解明する可能性がある。

<中国政府と深い関係>

BGIは科学専門誌及びウェブサイト上で、世界各国の医療研究者に対し、同社の機器で得られたウイルス関連データ、検査で新型コロナ陽性が確認された患者の検体を同社に送付し、中国政府が出資する国家遺伝子バンクを通じて広く共有するよう呼びかけている。

ゲノム解析産業におけるBGIの存在感が高まるなかで、米国政府高官は匿名を条件に、これによって中国が世界中の人々から遺伝情報を収集できてしまうリスクも大きくなっているとロイターに語った。

深センに本社を置くBGIのグローバルな拡大を支えているのは、同社と中国政府との関係だ。BGIは中国の国家遺伝子データベースの運営事業者であり、政府系の主要な研究所でも研究を担っている。

株式上場の際のBGIの申請資料では、「バイオテクノロジー分野での国際競争において指導的な地位を獲得する」という中国共産党の目標達成を支えることをめざすとされており、ロイターの取材によれば、米中両国政府間の「冷戦」がエスカレートするなかで、こうした狙いへの警戒が高まっている状況だ。

患者のプライバシーが保護されている国でBGIがそうした法令に違反しているという証拠は見当たらなかった。BGIはロイターからの質問に対する回答のなかで、中国政府との資本関係はないと回答している。

<米国にとっては二重のリスク>

バイオテクノロジー産業は地政学的に大きな価値を持つ。その支配に向けた努力や、世界中から遺伝しデータを集めようとする取組みをBGIがどの程度進めているのか、ロイターは、公開された文書や科学者・研究者・医療関係者への数十件のインタビューをもとに再構成を試みた。

複数の米当局者は、BGIがもたらす国家安全保障上の二重のリスクを警告している。米国市民の遺伝子配列というセンシティブな情報が外国の手に落ちるリスク、そして米国企業がゲノム分野における先駆者としての優位を中国企業に奪われるというリスクである。

医学研究においてデータの共有は必須である。だが遺伝子データに関しては、当局者・科学者とも、兵器に利用されかねないリスクがあるという。

DNAの一部があれば個人を特定できる。また複数の研究者が抑うつ障害などの症状と遺伝子との関連を発見している。科学・医学の専門家が1月に米国家情報長官室のために作成した総合報告書によれば、敵対的な主体が、監視や恫喝、誘導の対象とする個人を絞り込むために、こうしたデータを利用する恐れがあるという。ただし、この報告書では、そうした連関はまだ十分に理解されていないとも指摘されている。

「バイオエコノミーを守る(Safeguarding the Bioeconomy)」と題されたこの報告書は、全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、全米医学アカデミーがとりまとめた。

それによると、国家・軍の意志決定者の遺伝子組成とその行動傾向に関する知識が敵対国の情報機関による工作手段として利用される恐れがある。さらに、遺伝子データを通じて特定の疾病に対する米国の脆弱性が露呈するという。

企業各社がグローバル市場に向けたバイオ医薬品の開発・特許取得に向けてしのぎを削るなかで、米国の人口構成は民族的多様性に富むだけに、米国のゲノムデータは単一民族の国のデータより価値が高くなっている、と報告書は述べている。

データが多様であればあるほど、遺伝子由来の疾病を特定するうえで有利になるからだ。報告書は、BGIが米国の遺伝子サンプルをもとにDNA配列に関する情報を蓄積し、米国企業に対して「非対称的な」優位を得る可能性を指摘している。

米防諜安全保障センターのビル・エバニナ所長は、中国のゲノム関連企業に関するロイターの質問に対する回答のなかで、家族の病歴も含む遺伝情報は「非常に価値が高く、外国の体制によって、安全保障上・経済上のさまざまな目的で利用されかねない」と述べた。

<ファーウェイとも協力関係>

BGIと華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL] は両社が協力関係にあると述べている。すでに削除されているが、ファーウェイのサイトに掲載されていた動画では、BGI幹部が自社の遺伝子配列シーケンサーで「圧倒的な量のデータ」を処理し、ファーウェイの高性能システムに蓄積していると語っていた。

この情報が中国政府にも提供される可能性はあるかロイターが質問したところ、ファーウェイは回答のなかで、データ共有の相手は、同社テクノロジーの利用者だけが決めることだと述べた。同社は「ファーウェイのクラウド技術とクラウド・コンピューティング・サービスは安全性が高く、国際的なセキュリティ水準を満たすものだ」として、あらゆる法令を遵守していると述べている。

BGIは、診断用検査からは患者データにアクセスできないと話している。

BGIは、ウイルス及びCOVID-19患者のゲノム、すなわち遺伝的な設計図に関する科学的研究を行っているという。だが同社によれば、こうした研究は、COVID-19診断のために他国に提供している検査とは切り離されているという。

<新型コロナ患者の分析にも関与>

BGIは当初から中国の新型コロナ対応に関与していた。1月、ウイルスのゲノム配列を解読・公表したチームにも、同社の科学者が参加していた。

グローバルなデータベース上で他の研究者と共有されているゲノム配列に関する記録によれば、BGIは12月26日、武漢の軍病院の入院患者だった44歳の男性からスワブ(咽頭拭い液)を採取・検査している。武漢における原因不明の肺炎の症例についてWHOが報告を受けたのは12月31日だった。この患者から採取されたウイルスのゲノム配列は「WH01」と命名された。

中国の科学者らが1月29日に「ランセット」誌に発表した論文によれば、BGIは最初の検査の翌週、武漢の海鮮市場に行ったことのある別の入院患者3人から検体を採取した。BGIはこれらの検体についてもゲノム配列を解読している。

1月末までに、BGIは検査を大幅に拡大するため、武漢市政府向けの自動化された検査施設の設計を完了していた。BGIはこの施設を、中国の伝説に登場する孫悟空が持つ罠を見破る能力にちなんで「火眼」と名づけている。

同タイプの検査施設は中国国内で量産され、BGIが数ヶ月前に設立した慈善団体マンモス公益基金会が、世界各国への検査キット・検査施設の寄贈を開始した。BGIの発表及び国内報道によれば、この慈善団体を通じた寄贈により、今年半ばまでに少なくとも10カ国にBGIが開発した新型コロナ検査機器が設置された。

BGIからの検査施設調達にあたっては、中国政府が支援した部分もある。ソロモン諸島は中国大使館からBGIの検査キット・設備を購入するよう30万ドル(約3165万円)の資金を提供されたことを明らかにしている。中国外務省によれば、中国は医療サプライ品の安全性・信頼性を確保するために最善を尽くしているという。

BGIは、寄贈によるもの以外に数億ドル規模の検査施設受注があったことを報告している。オーストラリアからサウジアラビアに至る各国で白い保護服を着た技術者らが「火眼」検査施設を設置しており、上場子会社のBGIゲノミクス(300676.SZ)は先月、こうした需要により、今年上半期の利益は前年同期比700%増の2億1800万ドル以上になると述べている。

<有望市場開くDNAシーケンサー>

BGIのCOVID-19関連事業には主として2つの側面がある。

1つめは診断用の検査キットで、大量の検査を扱う高速処理ロボットとともに用いられる。患者の検体に含まれるウイルスの遺伝物質を検知して、感染の有無を判定する仕組みだ。BGIでは、こうした検査では患者のデータにはアクセスしないと述べている。

2つめの側面は、同社のマーケティング資料のなかでは追加オプションとして提供されているが、遺伝子配列を解析するシーケンサー設備である。

パンデミックが続く中、世界各国の研究者たちはシーケンサーを使ってウイルスの変異を追跡し、どの変異株が拡大しているか判断し、ワクチン開発に用いる変異株、サンプルを選択する。

DNAシーケンサーの需要を支えているのは、こうした機器が精密医療、またはオーダーメード療法と呼ばれる高収益の医療分野の原動力になるからだ。

精密医療では、誰にでも同一の医薬品を用いるのではなく、さまざまな人の遺伝子と環境の相互作用に注目し、疾病リスクや投薬への反応を予測しようとする。

7月、深セン証券取引所に上場しているBGIゲノミクスは、2億9300万ドルの増資を申請した。同社は申請資料のなかで、この増資によって「人体、ゲノム、人々の生活習慣及び環境」に関して可能な限り多くの患者データを集めやすくなり、「より多くを理解し、より正確な診断が可能になる」と投資家に説明している。

遺伝子シーケンサーの価格は移動可能なモデルで2万ドル、高性能モデルでは100万ドルに達し、各国のパンデミック対応において重要な武器の1つになっている。

新型コロナ以前にも、エチオピア政府は2019年10月に、BGIから寄贈された機器を備えたゲノム研究所を創設すると発表していた。数ヶ月後、米イルミナ(ILMN.O)は新型コロナへの警戒を支援するためアフリカ10カ国にシーケンサーを寄贈している。

「火眼」検査施設とともにBGIのシーケンサーを受領した国は世界で少なくとも5カ国あることが、各国またはBGIの発表により分かっている。BGIがロイターに語ったところでは、多くの場合、同社は「火眼」検査施設を保有・運営せず、単に設備を提供するだけだという。

BGIにとっては、シーケンサーは単に売り上げだけをもたらすわけではない。多くの人口をもとにウイルスを研究するうえで役に立っているという。

<「情報は金塊よりも貴重」>

BGIのシーケンサー設備を受領した国の1つが、バルカン半島に位置するセルビアである。この国には、「一帯一路」イニシアチブの一環として中国企業に貿易機会をもたらすべく、中国政府が多くの投資を行っている。セルビアでは2カ所の検査施設が開設された。中国・セルビア両国政府によれば、いずれも中国企業の寄贈によるものだ。

5月、最初の研究所が開設された後、コーディネーターとなったジェレナ・ベゴビッチ氏はロイターに対し、DNAシーケンサーはウイルスの遺伝情報と患者の遺伝情報を関連付けるうえで有用であると述べた。同氏は、今後も2つの検査施設がBGIとの協力の基礎になるだろうと話している。

「今日では、情報が金塊よりも貴重な場合がある」と彼女は言う。「その意味で、こうした協力関係は彼らにとって、この地域に関する情報源なのだ」

研究者らは今もグローバル規模でウイルスのデータを共有しているが、BGIは新型コロナウイルスについて、「グローバル・イニシアチブ・オン・オープンソース・ゲノミクス」と称する独自の共有プラットフォームを創設している。

中国国立遺伝子バンクと共同運営するウェブサイト(giogs.genomics.cn)において、BGIは世界各国の科学者に対し、それぞれの国内法令に沿って収集された、患者の年齢・性別・居住地を含むウイルス関連情報を送付するよう呼びかけている。

「最初に、(国立遺伝子バンク)を通じてウイルスのゲノムデータを提供することが求められる」とサイトには記載されている。

それと引き替えに、このサイトはシーケンス解析サービスと、検査キット及び試薬のコスト面での「大きな支援」を提供する。

BGIはロイターに対し、この新たなプログラムにおいて同社は患者の検体はいっさい受け取っていないと話している。検体のシーケンス解析は各地の施設で行われているからだ。

BGIによれば、目標としているのは「BGIのシーケンス解析関連ソリューションによって、ウイルスに関してもっと質の高いゲノムデータを開発する」ことだという。同社は、ウイルスに関する研究を支援するために、迅速かつオープンなゲノムデータ共有を促進したいとしている。

BGI本社には、国立遺伝子バンクの他にも少なくとも4つ、ゲノム研究に向けた政府指定「重要研究所」が同居しており、いずれも政府からの資金提供を受けている。BGIは、この資金は運営ではなく研究のために用いられていると話している。

研究所の1つは10数人のBGI研究者による研究を支援し、査読前の論文を掲載するMedRvixで公開した論文によれば、深センの病院に入院している300人以上のCOVID-19患者のゲノムを解析したという。

研究者らは、世界中で検査が行われるなか、今後は無症状の感染者を調査することが重要になってくると記している。論文の筆頭著者は、ロイターからの質問に応じなかった。

<人権侵害への関与を否定>

BGIがパンデミック対応を推進する一方で、中国と米国の緊張は高まっており、中国による遺伝子研究プログラムも槍玉に挙がっている。

先月、中国の人権侵害疑惑に関して米商務省が発表した制裁対象リストには、BGIの子会社も2社含まれていた。米国政府の主張によれば、BGIは中国西部・新疆自治区のムスリム系ウイグル族の遺伝子解析に関与しているという。国連の専門家及び人権活動家は、同自治区ではムスリムが収容施設に拘留されていると話している。

BGIはある声明のなかで、「当社はいかなる人権侵害も許容せず、今後も一切関わることはない」と述べている。

8月5日、各国が新型コロナウイルスの検査に奔走するなかで、ある中国企業の名前が世界中で大きく取り上げられている。写真は6月、北京でPCR検査の検体を採取する医療関係者(2020年 ロイター/Thomas Peter)

だが、中国の治安当局もBGIの顧客である。別のBGI子会社フォレンシック・ゲノミクス・インターナショナルは、自社ウェブサイト上で中国公安省と取引があると述べている。オーストラリア戦略政策研究所が今年行った調査では、この企業が、男性のDNAサンプル及び一部の新生児のDNAサンプル収集に関して警察と複数の契約を結んでいることがわかっている。

BGIでは、子会社フォレンシック・ゲノミクス・インターナショナルは科学倫理と法令を遵守していると述べている。中国外務省はコメントを避けた。

(翻訳:エァクレーレン)

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